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学者、評論家が用いる三つの言葉に惑わされるな/森谷正規氏

 

森谷 正規 氏
放送大学 名誉教授 技術評論家 

日立造船、野村総合研究所、東大先端科学技術センター客員教授、
放送大学教授、LCA大学院大学 副学長歴任。著書に「5年後、企業・
技術はこう変わる」他多数。


 

 電機産業の大手企業が収益で韓国のサムスンに完敗するなど、この十数年来、日本企業の強さに陰りが見えている。それを、産業や製品、その状況の根本的な変革が生じているとして、新しい造語を用いて論じる学者、評論家が多い。ビジネスモデル、モジュール化、ガラパゴス化の三つが代表的である。

 学者、評論家はこうした新しい言葉に飛びついて、企業の経営における失敗を論じ、しかも大半の産業、製品にそれが生じているかのように発言する。しかし、産業、製品はそれぞれにまったく個別的である。同じ状況が大多数の産業において生じるはずがない。この三つについて具体的に考えてみよう。

 まず、新しいビジネスモデルが生まれているのに、それに気づかず立ち遅れてしまったとの説を述べる者が多い。日本がかつては断然強かった半導体がそうだという。確かに、台湾が創り出した受託生産ビジネスのファウンドリーは、新しいビジネスモデルであるが、それは台湾という特殊な国情から生まれたものである。DRAMにおいてサムスンに敗れたのは、ビジネスモデルのせいではない。電機産業の失敗のもう一つの代表が、液晶・プラズマテレビだが、これもビジネスモデルはなんの関係もない。

 このビジネスモデルは、十数年前に米国で生まれた言葉であり、日本でもたちまち大流行した。しかし、ビジネスにおける収益を新しいやりかたで生み出すのは、古くからあった。機器からではなく、任天堂がゲームソフトで、ソニーがCDソフトで、キヤノンがカートリッジで大きな利益を上げたのがまさしくそれである。企業は、利益を上げる新しいやりかたがないかを常に探るのが当然であるが、その可能性がある産業、製品は限られている。いまも日本が断然強い乗用車には、新しいビジネスモデルはない。ビジネスモデルに立ち遅れるから失敗するという学者、評論家の説に惑わされてはいけない。 

 モジュール化は、経済学者がこれこそ次代の製品のあり方だと多いに推奨した。世界中から最も安い部品を調達してこそ成功するというのである。確かにパソコンはモジュール化の典型であり、そうしたビジネスが成り立つ。しかし、大多数の製品は、インテグラル型であり、そうした状況は大きくは変わらない。電気自動車の時代になれば、インテグラル型の典型である乗用車がモジュール化して、電機メーカーや中小企業が生産するようになると、学者、評論家で言う者がいるが、とんでもない話だ。あのトヨタが米国でたいへんな苦労をしたことで分かるように、安全性の向上が絶対条件である乗用車がいかに高度で複雑な技術であるか、考えもしないでいい加減なことを言う。 

 ガラパゴス化は、この数年しきりに言われるようになった。それは、携帯電話機で高性能化とその部品開発において世界を断然リードしている日本が、世界市場にほとんど入っていけない状況を言うのだが、確かに奇抜な表現であり、日本の特殊な条件に合わせたしまった失敗だと、ズバリ本質をついている。しかし、そのような製品が他にいくつもあるか。カーナビくらいのものではないか。ほとんどの製品において、日本企業は海外市場の開拓に懸命の努力をしているはずである。ガラパゴス化は、特殊な状況に過ぎない。

 この新しいビジネスモデル、モジュール化、ガラパゴス化の説に惑わされる最も重大な問題は、経営における失敗の本質を直視するのを妨げることだ。半導体、液晶・プラズマテレビの失敗の原因は何であるのか、なぜサムスンに敗れたのか、それは、戦略に欠けていたからである。サムスンは、1990年代に米国市場に入り始めたが、日本製品が圧倒的に強かった。そこで、あらゆる戦略を考え出して、猛烈に努力した。投資戦略、販売戦略、ブランド戦略、デザイン戦略などであり、それを必死になって実現しないと、日本製品に対抗できなかった。その成果がいま大きく現れている。 

 日本製品は、素晴らしかった。したがって、戦略など考える必要もなく、世界で売れた。しかし、良い製品が売れるとは限らない時代になった。それに気づくのが遅かったのが失敗の根本原因であるものが多い。 

 そこで、戦略が必須だが、これは、産業によって、製品によって、時代状況によってそれぞれに異なるものである。個別的な現実問題に強くはない学者、評論家が考えることではなく、企業自身が必死になって、変わりゆく状況における独自の戦略を構築していかねばならない。

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