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2013-12

ソニーのイメージセンサー挑戦の軌跡、今後へのヴィジョン/ソニー 鈴木智行氏

《と   き》 2013年10月25日 
《講  師 》 ソニー株式会社 執行役EVP 鈴木智行氏
《コーディネーター》 放送大学 名誉教授 森谷正規氏

 

 「イノベーションフォーラム21」の2013年後期第2回は、ソニーの執行役  副社長である鈴木智行さんの「ソニーのイメージセンサー挑戦の軌跡、今後のヴィジョン」と題するお話であった。
 1980年代には華々しい技術進歩を遂げて世界市場を支配した日本の半導体産業が、いまでは韓国、台湾勢に追い抜かれて、高かった世界シェアは急落して見る影もない。DRAMを中心に80年代には半導体王国であった日本は、いまではその地位を失っている。
 しかし、日本がいまも世界で断然高いシェアを持っている半導体も、一つある。それは、ソニーのイメージセンサーだ。ソニー一社で、世界市場の40%ほどを占めている。
 これは、人間、自然などの像を撮るもので撮像素子であり、CCD(電荷結合素子)、CMOSの半導体デバイスである。ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話端末などに利用されて、いま需要が急拡大している。
 このイメージセンサーで、なぜいまも日本のソニーが非常に強いのか、鈴木さんのお話でそれが良く分かった。それをDRAMと比較して考えて見よう。日本がこれからいかなる技術、製品で強い力を発揮できるのか、それを示してくれるのが、イメージセンサーである。
 イメージセンサーのDRAMとの相違は、まず第一に構造が複雑であることだ。ゼロか一かで記憶するだけのメモリとは違ってイメージセンサーは、いまでは一〇〇〇万を越えている画素の一つ一つで、光を電気に変換する、それを増幅する、その電気信号を次々に読み出すなどを行うために、構造は必然的に複雑になり、それを実現するための技術開発努力は非常に高度なものになる。
 それに最も早くから挑戦して来たのがソニーであり、技術開発で断然優位に立った。DRAMでは、各社が同じような技術レベルにあって、多数の日本企業の間で激しいシェア争いをしてきて、市場を分けあっていて、一社の設備投資規模は小さくなり、きわめて大胆な大規模の投資戦略で攻めてきたサムスンに敗れることになった。ところが、イメージセンサーでは四割もの世界シェアを持っているソニーが断然強いのだ。
 また、構造が複雑であるから、イメージセンサーの製造装置は、半導体製造装置メーカーでは作れず、ソニーが全体のシステムを自社で作っている。DRAMで高い技術開発力を持っていた日本がサムスンに急速に追いつかれたのは、日本や米国の半導体製造装置メーカーから技術流出が生じたためだ。メーカーは顧客のサムスンにノウハウを教えたのだ。イメージセンサーでは、それがない。
第二に、イメージセンサーは性能が多岐にわたることである。DRAMの性能は、いかに大量の記憶ができるかでほぼ決まる。消費電力が小さければ性能が良いのだが、それほど大きな問題ではない。
 ところがイメージセンサーの性能は、画素を大きくして精細にするのが基本だが、美しい映像にするために、感度を上げる、ノイズを減らす、色調を良くするなどの多くの要因が性能を決めることになる。またもっぱら携帯機器に用いられるので、消費電力の少なさも性能の大きな要因である。
 この多くの性能のどれも向上していかねばならず、したがって技術開発は多面的に進める難しさがある。DRAMのひたすら記憶容量を増やすという一直線の開発とは大きく異なるものになる。
 しかも、これは基本的に人間の目であり、鈴木さんは目を越えるまでに進化させようという意気込みを話されていて、技術開発に限りはない。 第三に、技術開発の基になったのがソニースピリッツであり、それがイメージセンサーでソニーを独走させた。鈴木さんは、井深さん、盛田さんが創業された際の設立趣意書について詳しく話された。イメージセンサーの開発には、まさしくそれが活かされている。

 そして、いまソニースピリッツを体現するものとして、次の三つを挙げた。Dream,Emotion,Inovationである。鈴木さんは、若い部下たちを叱咤激励するために、非常な努力をしている。ソニースピリッツを事あるごとにたたき込んでいるのだ。
 そこで思ったのが、技術開発におけるここまでの叱咤激励を、日本の企業の幹部はやっているのだろうかということである。私はそれを参加者に問いかけたが、何とかやって欲しいと強く望んだからである。鈴木さんのお話で、多くの人が我が社もやらねばと思ったに違いない。 (文責 森谷正規)

 

 

 



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