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2012-03

先進技術で未来を切り拓く技術者集団を目指す/國本工業(株)

《と   き》2012年1月23日

《訪問先 》國本工業(株)浜北工場(静岡県・浜松市)
 
《講  師 》代表取締役社長 國本幸孝氏
《コーディネーター》テクノ・ビジョン代表、元帝人(株)取締役 研究部門長 相馬和彦氏

 

 平成24年1月23日に、國本工業の本社工場を浜松に訪問した。國本工業は自社開発した絞り・拡張金型技術により、それまで困難と考えられていたステンレスパイプの肉厚、径、形を自在に変えられる加工技術開発に成功し、業界に革命をもたらしたことで知られている。この技術は、平成21年度の第3回「ものづくり日本大賞」を始め、数々の受賞や表彰を受けている。
今回は、この自社技術の詳細と、このような最先端技術が國本工業で開発出来た背景を、現場の見学および國本社長ご本人の講演から知ることを目的に、期待を持って訪問した。
最初に代表取締役社長の國本幸孝氏よりご挨拶があった。会社の目標は、顧客の要望に如何に応えるかにあると思っている。國本工業では、①如何に安く出来るか、②環境に良いか、の2点を重視している。後者では、自社加工時の排出を低く抑えると共に、軽量化により顧客サイドでも環境に寄与出来ることを目指している。

最初にグループに分かれ、工場見学を行った。見学途中で、國本社長より貴重なコメントがいくつかあり、現場を技術的および経営的視点から見学することが出来た。
 ①出荷工程 現在は500万個/年であるが、将来1,500万個/年に増産する。
 ②精密測定室 ラインでは見られない項目を測定している。
 ③outパイプライン 後でインナーパイプに熔接する。
 ④innパイプライン ③に熔接する。これがあって自動化が可能となった。
 ⑤フロントパイプとインナーパイプ自動工程
SUS430の曲げ/両端成型/カット/穴空け/洗浄までを自動生産している。絞り・拡張の金型は自社開発した。月産はそれぞれ90,000個。この製造ラインは、第3回「ものづくり日本大賞」受賞の対象となった。
 ⑥アクア用アウトレットパイプ(トヨタ向け)

 SUS430を用い、材料の投入から最終工程まで自動化。國本工業では、最初は絞り技術を徹底的に追求したが、それが拡張技術に発展し、更に平板技術に進化した。SUSの肉厚、径、向き、形など

を自由に変えることが出来る。これはまさにコア技術の好例である。ある商品を作るには、技術の塊

 

 

が必要であるが、その技術がその商品を作るだけであれば、新しい技術への発展はない。それらが次々と新し
い商品を作るための技術の塊に発展出来る潜在能力を秘めていれば、コア技術となり得る。國本工業が開発した最初の絞り技術は、まさにそういう能力を持っていたため、拡張技術、更には平板技術へと発展し、新しい商品を生み出し続けていると言える。ものづくりの世界では、多くのコア技術を持てるかどうかが勝負の分かれ目になることは、歴史的に数多くの事例で示されている。

 ⑦バッチ加工工程
  まだ一部にバッチ式の加工工程が残っているが、今後自動化する予定。
 ⑧シェービングマシーン 来週には自動化予定。
 ⑨曲げ加工工程
 ⑩プレス機
 ⑪金型修正・修理工程 ここで修理出来ない金型は、本社工場へ送る。
 ⑫レクサス用チューブスパークプラグ製造工程
  全自動工程で、プレスメカバルジ加工、ハイドロフォーミング加工に対比し、この工程は格段に優位にある。
 ⑬ハウジング オイルフィラーキャップ用

 工場見学の中で、國本社長よりコスト競争に関する重要なコメントがあった。國本工業で作る加工品は、中国やタイなどとの価格競争で負けておらず、価格は安く、品質は高く、しかも納期を守ることで競合に勝っている。コストで安く出来ている理由は3つあるとのこと。第一は、材料となる国産SUSの品質が優れており、海外品を輸入すると2割高となること、第二は、歩留まりが高いこと、第三には、自動化を徹底していることである。人件費、電気代、物流費、税金など様々な制約により、日本のものづくりは、品質や納期はさておき、韓国、台湾、中国などとのコスト競争で不利だと思い込んでいたが、今回の訪問でそうではない例があることを知り、目から鱗が落ちる思いであった。
 工場見学終了後、國本社長の説明をお聴きしながら、部屋の脇に特別に展示していただいた商品群を見学した。熔接なしのプレス加工だけで、よくぞ作ったと感心する複雑な形の商品が並ぶなかで、圧巻は潰し成型によるロシヤ仕様車用の排気パイプであった。まさに究極の変形品とも言えるもので、このような商品を製造出来るのは、他にはいないと思わせるに十分であった。

ここで國本社長より、「先端技術で未来を切り開く技術集団を目指す」と題したご講演をいただいた。國本工業の生まれは、昭和18年に父親が個人創業した紡績業に遡る。繊維産業の衰退により、昭和35年にプレス加工業に転換した。昭和45年には現在地に移転し、株式会社を設立した。昭和54年には、生産量の把握と事故対策のため、コンピューターによる生産管理システムを完成させている。現在は本社に21名、浜北工場(平成23年竣工)に54名(内正社員は38名)の従業員が居る。
昭和50年代になると、HY戦争と称せられるオートバイのホンダとヤマハの価格競争に巻き込まれ、売上が15億円から3億円に激減した。それからは歯を食いしばって生き残りを計ってきたのが本音である。そのため、「努力、進歩、挑戦」をモットーとしたが、その時の経験は今でも生きている。現在は、「未来への勝ち残り」を合い言葉として、「規模ではなく強さ」を、「量ではなく質」を求める経営を実行している。
従来は、両端の切削部品とパイプとを2ヶ所でロウ付けして作られていた部品を、極小曲げ技術と拡管/縮管技術によって、パイプ材からの一体加工で製造する技術を実現した。この部品を2006年にトヨタ自動車に納入出来たことが、次の飛躍に結びついた。この技術が、次々に新しい製品を生み出す原動力になったことで、この部品を社宝としている。

また、アルミ鋳造のパイプ加工部品を置き換えたことも、新しい市場進出を可能とした。従来、干渉物を避けるため、複数個所に干渉防止用の凹ましが必要なパイプ部品は、その複雑な形状から、ステンレスのパイプ加工では不可能とされていたため、アルミ鋳造にて製造されていた。これを國本工業の高度パイプ成形加工により、ステンレスパイプで干渉物回避を実現した。実現のために活用したのは、①300%の拡管、②30%の縮管、③極小R成型、④狭部極小R成型、⑤干渉防止成型、⑥増肉加工、などの要素技術の組み合わせによるコア技術であった。この技術による製造エネルギー減少効果が顕著であるとして、2011年“超”モノづくり部品大賞の「環境関連部品賞」を受賞した。現行品のアルミ鋳造品に対比した消費電力では、使用設備当たり13.6分の1、1個当たり64分の1に激減が可能となった。
 この技術は、複雑な曲げや極小曲げでも実力を発揮し、ベンダー曲げ対比で、①チャックしろはほとんど不要なため、材料長が短縮可能、②連続曲げが可能で、管の占めるスペースが減少、③複数曲げで、個々の曲げRを自由に設定可能、など対応幅が広い。
究極のパイプ加工と言われた燃焼式ヒーター排気パイプでは、パイプの中に詰め物をせずにパイプの潰し成型を実現したため、国立科学博物館での展示製品となった。
加工精度上、ハイドロフォーミング加工以外では困難と考えられて来た形状のパイプについても、メカバルジ加工(塑性加工)によって、輪郭などの厳しい精度を実現した。これによって、加工コストは約半分に削減出来た。このように開発してきたコア技術によって、様々な形状のパイプ加工製品が量産されている。
ギア部の特殊歯形状のため、量産加工が困難であった部品を、プレスでの量産化に成功した。また、プレスによって、フランジ、冷鍛加工品、板材加工品を製造している。
ここまで製品群が拡大したのは、工場見学の際に國本社長が仰っていたように、コア技術を、絞り→拡張→平板と順次発展拡大させてきた結果が反映されている。
会社を更に発展させるために、國本社長が今後やろうとしていることを列挙すると、
 ①固有技術の更なる研鑽
 ②客先との更なる連携強化
 ③社員のモーチベーション向上 常に前向きな姿勢をトップが示す。
 ④人材育成 基本は人、人を信じて仕事を任せる。
 ⑤製造エネルギー(温室効果ガス)削減 環境への配慮
 ⑥海外戦略 時流に乗った経営戦略の展開
の6項目に要約される。
講演終了後、質疑応答の時間を持った。講演内容がすべて現実に社長自らが実施してきた内容であり、しかも強固な芯が通っていたため、参加者からの多くの質問が出されたが、要旨のみを下記に纏めた。
 ①顧客から現在出ている要望と、将来予測される要望に対する技術開発と社内体制はどのようにしているか?
 → 厳密には分けていない。こうやったらどうかをいうことはいつも考えている(特にコストダウン、加工手間の削減など)。
 ②社員に目標を達成させる方法、コツなどはあるか?
 → 社員を怒らないで、楽しむことを考える。まず機械を作る(シェービング、オイルシャワーのプレス穴空けなど)。すると思わぬ技術が出てくる。今までにない技術を作りたいと思わせる。ただ、財務システムはしっかりしたものを持っており、経済性の評価は行うようにしている。
 ③技術者の育成方法は?
 → 価格や顧客の求めが何かについては、社長自身が関与する。
 ④特許出願とブラックボックス化とはどう分けているか?
 → 顧客に迷惑が掛かりそうだと予想される技術については、それを避けるために出願することにしている。
 ⑤金型設計はどうしているか?
 → 設計のための人材は、自社に20名居る。全員で発案する。機械も自社で設計する。外注していたのでは、コストで他社と差が出ない。
 ⑥製品寿命の判定はどうやっているか?
 → 薄肉化がないことや残留応力などで評価している。メーカー基準を守っている。
 ⑦海外での特許には留意が必要では?
 → KHは金型に入れるようにしているので、見せても大丈夫。
 ⑧試行錯誤があると思うが、そのプロセスは?
 → 原価管理はしっかりし過ぎている位で、そこから見積もりシステムを構築した。また技術分析で、要素技術とその具体的範囲、およびその拡張を検討し、自社の実力も認識するようにしている。

今回の訪問で印象深かったことは、第一に、國本工業がメーカーとして勝ち残るために必須の強いコア技術を有し、それをより強い技術へと絶えず進化・拡張させていることである。ものづくりの基本にしっかりと立っていることが分かる。第二に、ある時期企業が存亡の危機に瀕し、その危機感の中で生き残ってきた経験が経営陣の骨身に染み込んでいることである。これがあるため、企業が発展しても現実に安住することなく、常に次のことを考え、手を抜かない経営に結びついていることである。一度経営危機に直面した企業が、反ってその後発展した事例は多いが、國本工業もその危機感をしっかりと共有していることが伺えた。
最後に、日本のものづくりがコスト的に不利であるため、品質や納期などコスト以外で勝負しようというのが常識化しているのに対し、コストでも中国やタイに十分勝ち、更に品質は納期でも優位だという國本工業のものづくりは、まさに目から鱗が落ちる事実であった。国産材料に競争力があることが一因ではあるが、これはものづくりに携わる技術者・経営者が再度見直すべき視点ではないだろうか。そのような貴重な教訓を得た訪問となった。(文責 相馬和彦)

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