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2013-06

新型N700Aに至る東海道新幹線の開発、今後の日本の高速鉄道構想/JR東海 森村勉氏

《と   き》2013年4月25日 
《講  師 》東海旅客鉄道(株) 代表取締役副社長 森村 勉氏
《コーディネーター》放送大学 名誉教授 森谷正規氏

 

 「イノベーションフォーラム21」の13年度前期第1回は、森村勉JR東海副社長から、「高性能新型N700Aに至る東海道新幹線の開発と今後の日本の高速鉄道構想」というお話をいただいた。
 最初はN700Aで何が進んだのかということであるが、定速走行装置と地震対策が大きなものであった。地震の際のブレーキを15%アップして、0系の時代には制動距離が4キロ程度であったが、N700Aはから2、8キロ程度に減らしたということである。
 次に新幹線全体の話に入ったが、いまでは海外諸国で走っている列車と比べて、正確さが断然優れているのが、日本の誇るところである。1分以上の遅れを遅延とするのだが、平均的には、遅れは0、6分とごく僅かである。海外で講演をする際には、毎年の遅延を図で示すが、最初は単位を入れないそうだ。すると、聞いている鉄道関係者は当然、時間だと思う。そこで、分ですというと、仰天するという。
 日本の新幹線が誇るのは、安全と正確さであるということだ。また意外であったのは、新幹線がフランスのTGVなどより、車両の幅が広いということだ。海外は広軌であるから広いとばかり思っていたが、在来線を利用しているために、高速鉄道だからといって、車両の幅を広くするわけにはいかない。一方、日本は新幹線を広軌にして、また専用の路線であるために、車体を大きくすることができた。
 そこで、1列車の乗客数は、新幹線が格段に大きい。しかも、1時間に最大で15本走らせている。日本の新幹線こそが、高速大量輸送機関である。私は、TGVが速度記録を次々に高めて威張っていたころ、あれは、輸送機関というよりスポーツカーだと皮肉を言っていた。
 このN700Aは、東海道区間を最高時速270キロで走る。JR東海は、営業速度をどんどん上げようということはしない。力を注ぐのは、やはり大量輸送である。そこで大きな課題は、「のぞみ」「ひかり」ばかりではなく「こだま」まで、すべての列車を時速270キロ走行可能な車両に置き換え、それによってダイヤをすっきりさせて、輸送能力を大きくすることであった。
それを実現するには、15年もの長い年月を要したという。それまでの間、速度に対応する諸施設を早くから整備しないといけないのであり、先行投資が膨大な額になる。我慢の15年だと森村さんはおっしゃっていた。高速鉄道を進化させるのが、他にはほとんど見られないたいへんな経営上の難しさを持っていることが良く分かった。

 後半は、新幹線における技術開発のお話である。まず、鉄道は、航空機や原子力とは、開発の性格が大きく異なるとおっしゃった。航空機や原子力は、演繹的な開発であるが、鉄道は帰納的な開発という根本的な相違があるという。開発の基になる理論があれば、演繹的に開発ができるのだが、鉄道は、理論はなく、現象に基づくものであるという。
 それを具体的に言えば、フィールドデータ分析を基本とするということである。そこで、大型試験機による数々の試験を行って、また線路を走っている車両から、日常的に、各種のデータを取る。いま走っている新幹線の車両には、非常に多くのセンサーが搭載されているという。それは膨大な量になるのであり、そのデータを分析することによって、多くのことが分かって、開発を進めることができる。

鉄道は、自然の中を走り、街を走り抜けるが、それは場所によって状況が異なり、しかも日々異なっている。それがまさしくフィールドであって、新幹線はそれに適応しないといけない。そこで、フィールドデータが最も重要になり、それを分析して、開発の基盤とするということであろう。
 確かに、一般の機器、システムとは性格が大きく違っていて、開発の方法論も根本的に違うのである。フィールドデータ分析というのが、お話の中で、最も印象に残った言葉であった。

 開発の内容としては、地震対策を主に話された。中でも、ロッキング脱線について詳しかった。これは、車両が浮上して横にずれて脱線をするものである。大型の装置で実験し、観察し、シミュレーションを行ってさまざまな類推をして、地震によって脱線しないような対策を考え出すのだ。その内容は、非常に詳細にわたった。それをここでは詳しくは述べないが、来るべき東南海大地震に遭遇しても、新幹線は安全であろうと安堵することができた。
 日本はこれから、世界に向けて、社会インフラの各種のシステムを開発していくのが、新たな大きな方向である。その社会インフラにおける問題、困難性、開発の考え方などが良く分かるお話であり、多くの企業に非常に有益であったと思う。

(文責 森谷正規)

 

 

 

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