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2007-08

21世紀企業と環境経営

と き:2007年8月2日
ご講演:シャープ(株)代表取締役専務 太田賢司氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
 

 21世紀フォーラムの第5回は、シャープ株式会社代表取締役専務である太田賢司さんの「21世紀企業と環境経営」と題するご講演であった。
 シャープは今、最も注目を集めている企業である。薄型大画面テレビがいよいよ世界で巨大マーケットに発展しているが、シャープは液晶テレビの実用化に向けて、他社よりも断然早く力を注いで来て、液晶テレビでは、現在、国内で断トツのシェアを握っている。
 三重県にある最新鋭の亀山工場に積極的な投資を進めており、これは最も注目されている工場である。その亀山工場に5000kwの大型の太陽光発電設備を設置していて、規模においては日本一であり、蓄電のための超伝導システムも導入していて、地球温暖化を防ぐ環境配慮の非常に進んだ工場になっている。
 その環境保全を目指す経営を企業全体として志向している、というのが今回のお話である。
 前半は先ずシャープの経営全般について話をされたが、中でも研究開発についての三つの制度が関心を引いた。
 第一は、緊急開発プロジェクトである。「緊プロ」と略されてよく知られているが、重要性の最も大きい開発課題を社長直轄で全社を挙げて進める制度であり、1977年に開始されて、今も実施していて大きな成果を挙げている。
 第二は、シャープ・ドリーム・テクノロジーといわれる、3〜5年先を目指した革新的な技術へ挑戦するもので、いわゆる「魔の川」、「死の谷」、「ダーウィンの海」の障害をいかに克服するかに力を注いでいるという。
 第三は社会連携で、社会に広く研究開発の可能性を求めるのだが、大学の研究者たちとの共同研究に力を注いでいる。東京大学、大阪大学などにシャープ・ラボを設けて、研究者を派遣して本格的な開発に取り組んでいる。
 後半がシャープの環境経営のお話であるが、環境先進企業として、環境問題をマイナスを減らすものとしてとらえるのではなく、利益を求める経営と両立させるのが基本であるという。この環境経営では、環境にかかわる基本的な目標を1)地球温暖化の防止、2)資源枯渇への対策、3)有害化学物質の排除の三つにおいている。中でも中心であるのが温暖化防止であり、企業としての「温暖化負荷ゼロ」を目指している。大画面テレビを生産すれば、当然ながらエネルギーを消費して、それはCO2を排出することになるが、一方で自然エネルギー利用の太陽電池を生産、供給して、それによるCO2の排出減少をもたらして、差し引きゼロにしようというものである。このように企業全体として温暖化負荷ゼロを実現するのは理想的な環境経営である。
   この環境経営を目指す方策として、シャープは「スーパーグリーン(SG)戦略」を打ち出している。これは多くの要素からなっていて、企業のあらゆる面で環境に最も好ましいかたちを探っていくものであり、SGT(テクノロジー)、SGP(プロダクト)、SGD(デバイス)、SGF(ファクトリー)、SGR(リサイクル)、SGM(マネジメント)、SGC(コミュニティ)が挙げられた。それぞれにおいて、いかに環境保全に役だっているかを計る尺度を設けていて、90点以上であれば、スーパーグリーンであるとする。それを目指して、各部門が大いに努力をするのである。
   SGCは、環境に関して地域での社会貢献活動を行おうというもので、「シャープの森」と称して社員と家族による植樹の活動を各地で行い、また太陽電池などを提供して、小学校での子どもたちへの環境教育をNPOの協力を得て実施している。
   このような包括的な全社的な制度を設けて、企業活動のあらゆる面での環境保全への寄与を目指している企業は、まだ数少ない。しかも、尺度を定めて点数までつけるという実践的な活動を行っているのは希少である。このような具体的な制度を設けているのであるから、自社ばかりではなく国内の企業からさらに海外の企業にまで広めていく努力をして欲しいものである。

(森谷正規)

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屋根瓦と瓦博士・人間国宝 小林章男/志村史夫氏

 

 

 
志村 史夫 氏

静岡理工科大学 物質生命科学科 教授
1948年東京・駒込生まれ
1974年名古屋工業大学大学院修士課程終了(無機材料工学)
1982年名古屋大学工学博士(応用物理)
NEC中央研究所、米国モンサント研究所、ノースカロライナ州立大学を経て、30年以上に亘り半導体結晶をはじめとする材料研究に携わって来た。ノースカロライナ州立大学併任教授

著書に『半導体シリコン結晶工学(丸善)』、『ここが知りたい半導体』(講談社)、『ハイテク・ダイヤモンド』(講談社)などの専門書の他に、『ハイテク国家・日本の知的選択』(講談社)、『体験的・日米摩擦の文化論」、『理科系の英語』などの準専門書、『目覚めよ日本』(致知出版社)の評論集がある。
1993年秋、約11年間暮らしたアメリカから帰国後、ハイテク研究の第一線から退き、現在は古代技術、ギリシャ哲学、日本古代史、基礎物理などに輿味を持つ。この分野でも「古代日本の超技術」、「生物の超技術」、「ハイテク国家 日本のアキレス腱」などベストセラー多数。日本刀、たたら製鉄、卸し鉄などの技術思想の現代への再蘇生を訴えている。

 日本を象徴する風景の一つは「甍(いらか)の波」だと思う。

 都会では見ることができないが、なだらかに連なる里の山を背景にした民家集落の屋根瓦たちのやさしい表情が私は好きである。また、古寺や城郭の勇壮な屋根を見れば、屋根が単に建築物の一機能を果たすだけのものではなく、日本の伝統的建造物の外観意匠の重要な構成要素であることもわかる。さまざまな種類の瓦は屋根の主役である。
 
 およそ4年前、私は瓦博士・小林章男氏とひょんなことから知り合ったことが契機となって、「瓦」に大いなる興味を持ち「古代瓦と現代瓦の比較研究」を始めた。一見単純に思える「屋根瓦」であるが、知れば知るほど、その奥の深さに驚かされる 法隆寺に代表される日本が世界に誇る木造古代建築の素晴らしさについては、木を知り尽くし、また、その木を活かし尽くした西岡常一棟梁の著作などにより広く知られている。また、白鷹幸伯鍛冶らの功績により、木造建築に欠かせない大工道具や釘の重要性についても知られている。
 しかし、このような木造古代建築を、年間を通して降雨量が多く、湿度も高い日本の風土から守って来たのが屋根瓦であったことを、私は瓦博士・小林章男氏から学んだ。瓦は、まさに「縁の下の力持ち」ならぬ「屋根の上の力持ち」なのである。

 もちろん、屋根瓦の第一の使命は外からの雨、雪や火などの「攻撃」から建物を守ることである。しかし、古代瓦が果たして来た役割は、それだけではなかった。雨の日は、木造建造物の天井裏から室内の湿気を吸って保湿し、天気になればそれを屋根から蒸発させるのである。つまり、外からの「攻撃」から建物を守るだけの現代瓦とは異なり、古代瓦は「呼吸」し、屋内の湿度調節をすることによって、高温多湿の日本の気候から木造古代建築物を内から守って来たのである。

 日本の木造建築と屋根瓦の役目のことを考えれば、どう考えても、古代瓦の方が現代瓦より優れている、といわざるを得ない。
 例えば、現代瓦は古代瓦に比べ20%ほど重い。その理由は、古代瓦の内部には30%ほどの空隙が含まれているからである(現代瓦の空隙は約半分の15%程度)。実は、この空隙が、瓦を軽くしているだけではなく、上記の「呼吸」を可能にしているのである。古代瓦と現代瓦の性質の違いは、原料(粘土)や成形法、焼成窯、焼成温度などの製造工程の差に起因するものである。

 現代のさまざまな先端技術を駆使して量産されている現代瓦が古代瓦に劣る、というようなことを聞けば、読者は奇異に思うに違いない。しかし、長年「ハイテク」に従事してきた私としては、内心忸怩たるものもあるのだが、瓦に限らず、「現代技術」が「古代技術」に及ばない分野は少なくないのである(拙著『古代日本の超技術』講談社ブルーバックス)。いまも、日本最古の1400年前の瓦が日本の文化財建築を守り続けている凛とした姿を目の前にすると、私はいつも古代の匠の技に畏敬の念を抱かざるを得ないのである。

 私は仕事でいろいろな土地に行くことが少なくないが、注意して眺めると、日本各地には、その土地土地の粘土を焼いた独特の瓦があることに気づく。社寺、城郭、民家など、数多くの文化財の屋根の再建、修復に従事している瓦博士・小林章男氏は、これらその土地土地の瓦を「方言の瓦」という素晴らしい名前で呼んでいる。
 方言は一つの文化であるが、「方言の瓦」は単なる「文化」だけではなく、その土地土地の気象、風土に適した「物」、まさに、長年の歴史と職人の工夫の積み重ねによって醸成された「作品」、いや「芸術品」である。日本の古代木造建築は、このような「方言の瓦」に守られて来たのだ。
 そのような「方言の瓦」は戦後の「高度成長」と共に、日本の各地から急激に消えた。現代社会が要求する「生産性」「経済性」「効率」のために、「規格化」(風土を無視した均一化、均質化)されて量産されるようになったからである。

 瓦博士・小林章男氏は現在86歳であるが、いまも、現役の瓦職人、瓦研究者として、また日本の文化財木造建築物の保存・伝承の中心的人物として、「文化財の建物には、軒裏を腐らすような現代瓦は使えない」と古代瓦、そして、奈良時代から室町時代の末まで最高品質の古代瓦を生み出していた幻の平窯の復元に精力的に取り組んでいる。
 日本の古代木造建築にあって、無言のうちに湿度や温度の調節を行い、外観意匠上も重要な役割を果たして来た日本の瓦をひたすら愛し、当時の瓦職人の情熱と技術を熱く語り、優れた古代瓦の復元に、文字通り命を燃やし続けているのが瓦博士・小林章男氏である。(07/8/3)

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