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2010-11

脚光を浴びる太陽電池の開発、事業化とビジネスモデル / 桑野 幸徳 氏

 2010年度後期「イノベーションフォーラム21」の第3回は、三洋電機元取締役社長で、現在は太陽光発電技術研究組合の理事長をなさっている桑野幸徳さんの「脚光を浴びる太陽電池の開発、事業化とビジネスモデル」と題するお話であった。
桑野さんは、アモルファスの研究開発において多大な成果を上げた研究者であり、世界で始めてアモルファス太陽電池を開発、実用化された方だが、三洋電機の経営トップとしても活躍された。
 お話は世界のエネルギー問題から入り、“成長の限界”から“地球の限界”の時代に来ていて、それを考慮してすべてを前進させねばならないと強調された。その解決策の最たるものが太陽エネルギーである。
 三洋電機に入社し、中央研究所に配属されたが、独自性に拘るようにとの研究所の方針で、桑野さんは異端の物質であるアモルファスを研究対象に選んだ。しかし10年も続けて成果が出ず、所長に止めたいと申し出たが、止めてはいけないと厳命され、ちょうどオイルショックの時で、エネルギーに向けて開発したらどうかとの言葉で、太陽電池に改めて挑戦することにした。
  太陽電池でも苦労の連続であったが、電卓用の電池に向けて実用化を進めて、少しずつ市場が拡がって研究開発を続けることができた。確かに日本は、日本のオリジナル製品で世界市場を独占した電卓の存在が、非常に長期になった太陽電池の開発に大きなプラスになった。                                
 1990年代に入って、太陽光発電へ向けた実用化が始まったが、家庭用発電装置への通産省の助成制度、電力会社の系統に組み込んで購入して貰う制度が普及に必要不可欠であり、業界として懸命に働きかけて実現させたと苦労話をされた。社会に向けたシステムでは、このような制度が実用化、普及を進める重要な条件になる。
 そして日本は、世界を圧倒的にリードする太陽電池・太陽光発電大国になった。ところが周知のように、わずか3-4年の間に、中国・台湾、欧州勢に追いつかれ、抜かれてしまった。その最大の原因が、ドイツが通常の電力価格の3倍もの高い価格で、太陽光発電電力を購入するFIT制度を導入して、スペインなどが加わり、欧州で市場が一気に拡大したことである。そこで、ドイツ、米国、中国の企業が生産を急拡大して、上位を独占していた日本企業を蹴落とした。しかも日本は、補助制度を止めてしまった不利があった。なお、欧州市場でなぜ中国に敗れるのかを討議の時間に聞いたのだが、中国では輸出製品への17%もの補助を出していて、価格競争が不利であるとのことであった。これは見逃せない大きな問題である。
 だが、太陽光発電はこれからであり、技術の蓄積が大きい日本は、再び世界をリードできるはずだ。まず日本での可能性だが、住宅に加えて事業所、公共施設などにフルに設置すると、236GWになる。1GWは100万kWであり、原子力発電所1基分である。発電の効率が低いことを考慮すると5分の1にせねばならないが、原子力発電所50基分になり、非常に大きい。
 世界全体では、現在の産業規模は約2兆円だが、5-10年内に10兆円になり、これは、現在の液晶パネルの8、5兆円を超える。
 地球規模で見ると、広大な砂漠への設置が大きな可能性をもたらし、2010年の全世界のエネルギー消費は、全砂漠の4%の面積で賄えるという。そこで、桑野さんが早くから提唱されたジェネシス計画が必要になる。超伝導ケーブルで、太陽光発電電力の世界ネットワークを築くのだ。十数年前の雄大な構想が、こらから可能性としても見えてくる。
 最後に、グローバル大競争の中で日本はどう戦うかという話をされた。日本が抱えているハンディキャップとして、1)高いインフラコスト、2)高い企業の社会コスト負担、3)早い変化に対応できない各種の制度、4)非効率的運営の四点を挙げ、その対応として、1)真のグローバル化(M&BOPビジネスを含めて)、2)質と量への対応、3)早い変化に対応、4)地道な技術開発の四点を挙げた。M&BOPは、ピラミッドのミドルとボトムの意味であり、いまの日本は、ピラミッドのトップとミドルを狙っているが、40億人の人口を抱えるボトムにも目を向けるべきとの主張である。それは、質ばかりではなく量も狙うべきとする説であり、これは日本にとって根本的に重大な問題である。
 「時代は国家イニシャチブによるグローバル大競争時代」とするお話で締めくくった。確かに、環境・エネルギー、輸送、水などの社会インフラが国際競争の最も重要な領域になるのであり、国の果たす役割が非常に大きくなるのは間違いない。太陽電池産業も国家戦略が不可欠であるというのは、きわめて重要な主張である。
 全体を通して言えば、技術的な深さ、視野の広さ、そして将来への時間軸の長さを合わせ持った素晴らしいお話であった。

(文責 森谷正規)



学者、評論家が用いる三つの言葉に惑わされるな/森谷正規氏

 

森谷 正規 氏
放送大学 名誉教授 技術評論家 

日立造船、野村総合研究所、東大先端科学技術センター客員教授、
放送大学教授、LCA大学院大学 副学長歴任。著書に「5年後、企業・
技術はこう変わる」他多数。


 

 電機産業の大手企業が収益で韓国のサムスンに完敗するなど、この十数年来、日本企業の強さに陰りが見えている。それを、産業や製品、その状況の根本的な変革が生じているとして、新しい造語を用いて論じる学者、評論家が多い。ビジネスモデル、モジュール化、ガラパゴス化の三つが代表的である。

 学者、評論家はこうした新しい言葉に飛びついて、企業の経営における失敗を論じ、しかも大半の産業、製品にそれが生じているかのように発言する。しかし、産業、製品はそれぞれにまったく個別的である。同じ状況が大多数の産業において生じるはずがない。この三つについて具体的に考えてみよう。

 まず、新しいビジネスモデルが生まれているのに、それに気づかず立ち遅れてしまったとの説を述べる者が多い。日本がかつては断然強かった半導体がそうだという。確かに、台湾が創り出した受託生産ビジネスのファウンドリーは、新しいビジネスモデルであるが、それは台湾という特殊な国情から生まれたものである。DRAMにおいてサムスンに敗れたのは、ビジネスモデルのせいではない。電機産業の失敗のもう一つの代表が、液晶・プラズマテレビだが、これもビジネスモデルはなんの関係もない。

 このビジネスモデルは、十数年前に米国で生まれた言葉であり、日本でもたちまち大流行した。しかし、ビジネスにおける収益を新しいやりかたで生み出すのは、古くからあった。機器からではなく、任天堂がゲームソフトで、ソニーがCDソフトで、キヤノンがカートリッジで大きな利益を上げたのがまさしくそれである。企業は、利益を上げる新しいやりかたがないかを常に探るのが当然であるが、その可能性がある産業、製品は限られている。いまも日本が断然強い乗用車には、新しいビジネスモデルはない。ビジネスモデルに立ち遅れるから失敗するという学者、評論家の説に惑わされてはいけない。 

 モジュール化は、経済学者がこれこそ次代の製品のあり方だと多いに推奨した。世界中から最も安い部品を調達してこそ成功するというのである。確かにパソコンはモジュール化の典型であり、そうしたビジネスが成り立つ。しかし、大多数の製品は、インテグラル型であり、そうした状況は大きくは変わらない。電気自動車の時代になれば、インテグラル型の典型である乗用車がモジュール化して、電機メーカーや中小企業が生産するようになると、学者、評論家で言う者がいるが、とんでもない話だ。あのトヨタが米国でたいへんな苦労をしたことで分かるように、安全性の向上が絶対条件である乗用車がいかに高度で複雑な技術であるか、考えもしないでいい加減なことを言う。 

 ガラパゴス化は、この数年しきりに言われるようになった。それは、携帯電話機で高性能化とその部品開発において世界を断然リードしている日本が、世界市場にほとんど入っていけない状況を言うのだが、確かに奇抜な表現であり、日本の特殊な条件に合わせたしまった失敗だと、ズバリ本質をついている。しかし、そのような製品が他にいくつもあるか。カーナビくらいのものではないか。ほとんどの製品において、日本企業は海外市場の開拓に懸命の努力をしているはずである。ガラパゴス化は、特殊な状況に過ぎない。

 この新しいビジネスモデル、モジュール化、ガラパゴス化の説に惑わされる最も重大な問題は、経営における失敗の本質を直視するのを妨げることだ。半導体、液晶・プラズマテレビの失敗の原因は何であるのか、なぜサムスンに敗れたのか、それは、戦略に欠けていたからである。サムスンは、1990年代に米国市場に入り始めたが、日本製品が圧倒的に強かった。そこで、あらゆる戦略を考え出して、猛烈に努力した。投資戦略、販売戦略、ブランド戦略、デザイン戦略などであり、それを必死になって実現しないと、日本製品に対抗できなかった。その成果がいま大きく現れている。 

 日本製品は、素晴らしかった。したがって、戦略など考える必要もなく、世界で売れた。しかし、良い製品が売れるとは限らない時代になった。それに気づくのが遅かったのが失敗の根本原因であるものが多い。 

 そこで、戦略が必須だが、これは、産業によって、製品によって、時代状況によってそれぞれに異なるものである。個別的な現実問題に強くはない学者、評論家が考えることではなく、企業自身が必死になって、変わりゆく状況における独自の戦略を構築していかねばならない。

新たな価値創造 超高解像度TV・Cell REGZAの開発、日本のものづくりの復権を目指して — 東芝 田辺俊行 氏 

と き : 2010年10月27日(水)
会 場: 東京理科大学 森戸記念館
ご講演 : (株)東芝 ビジュアルプロダクツ社 理事   田辺俊行  氏 

 

 「イノベーションフォーラム21」の2010年度後期 第2回目は、東芝ビジュアルプロダクツ社 理事である田辺俊行さんの「新しい価値創造 超高解像度TV・CellREGZAの開発、日本のものづくりの復権を目指して」と題するお話であった。いま日本のテレビは、世界市場においては韓国のサムスン、LG2社に大きなシェアを奪われて苦戦しているが、東芝は高画質のテレビで人気を高めて、日本メーカーの中ではシェアを着実に高めてきている。やはり品質、性能で勝負するのが日本企業だが、テレビでそれが可能であるのか、大いに注目される。
  まず、組織と開発体制についてのお話があったが、映像事業部を二つに分けて、第1事業部は先進国対象、第2は発展途上国対象としているのが注目点であった。確かにこの二つは市場の性質がかなり異なっていて、日本は市場の伸びが大きい発展途上国向けで遅れを取っているのであり、分けて事業を進めるのはいまの時代には必要なのだろう。開発体制では、icubeという表現で、開発、生産、営業の三つが一体になって進めていく点を強調された。
 2000年代の初めから、大画面の液晶テレビ、プラズマテレビがいよいよ普及していく時代に入ったが、東芝は液晶テレビでは、日本企業の中でも出遅れが大きかったという。そこで、高画質化による巻き返しに全力を投入することを決めた。それをREGZAと命名して、さらに超高性能半導体であるCellを採用して、CELL REGUZAとして抜きん出た高画質化を目指した。それによって、国内シェアでは、2000年の7%から急速に高めて、25%まで上げることができた。やはりテレビも、品質、性能が大きな武器になるのだ。
  その高画質化の原動力になったのが、絵づくりの匠である。東芝には、入社以来ひたすらテレビの絵づくりをしてきた専門技術者が3人いて、無限大の数になるあらゆる絵柄において、最高の画質が実現できるように工夫し、そのデータベースをどこまでも蓄積していく。そのたゆまぬ努力が、高画質を実現させる。しかもそれは、蓄積を着実に深めることによって年と共に進化していくのだ。高画質化の目標は、デジタルツールを用いて、いかにアナログの表現に近づけるかであり、それを実現するのが匠の技である。
 この蓄積と匠が、韓国に対抗していく有力な手段になるのだが、それが最先端分野における新製品の創造に活かせるというのが、大きな発見であった。蓄積と言えば、創造とはあまり関係がないと思われがちであるが、そうではなく、蓄積による創造を目指すのが、蓄積の賜物である匠が育つ風土がある日本の進むべき道の一つである。
  田辺さんは、脱コモデティ化も強調された。これは日本企業にとって世界市場で伸びていくための最も重要な課題であるのだが、ただし、いわゆるボリュームゾーンを狙うべきとする方向もあって、それが絶対であるか一概にはいえない。コモデティといえば、日用品のように安価になることのように取られるが、田辺さんが言う脱コモデティは、安価ではない良い高い製品を狙うと言うのではなく、誰でも作れるのがコモデティであって、他社では作れないものにするのが、脱コモデティと言うのである。これは、大いに注目すべき方向であり、安く作る努力は大いにすべきなのだ。テレビでは当然であり、他社ではできない高画質化を実現して、価格競争力は充分に保つのである。
  東芝のテレビのパンフレットを見ると、エンジンと言う言葉をひんぱんに見かけるが、田辺さんもエンジンにしばしば言及した。テレビでエンジンとは何か。半導体×ソフトウェアであって、テレビの中核になるものだ。エンジンを核としたビジネスモデルを構築していくが、重要なのはソフトウェア開発力と、絵づくり技術などの蓄積であるという。
  テレビは、かつてはブラウン管、いまは液晶、プラズマのパネルが核であると思っていたのだが、そうではないようだ。エンジンが核になるのであれば、半導体とソフトは進展を続けるので、テレビはこれからも大きく発展していく。日本企業は、ここで再び世界をリードしていくことが可能である。
  最後に3Dの話をされたが、東芝はグラスレス3Dの開発に大きな力を注いでいる。これも、エンジンが非常に高度になって可能になる。その実現はかなり先になるようだが、やはりテレビはこれからも発展していく製品であると、思いを新たにした。
  なお、会場で3Dも写すCELL REGZAを見せていただいた。確かに素晴らしい画面であり、大半の人が欲しいと強く思うだろう。かなり高価であるが、なんとか安くして広げて欲しいものである。                     (文責 森谷正規)

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