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電子顕微鏡王国の復権を願って!/外村彰氏

外村 彰 氏

工学博士、理学博士
(株)日立製作所 フェロー
理化学研究所 フロンティア研究システム単量子操作研究グループ
グループ長

1965年 東京大学理学部卒  (株)日立製作所中央研究所入社
1990年 同基礎研究所主管研究長
1999年 同フェロー、現在に至る
2001年 理化学研究所 フロンティア研究システム単量子操作研究
     グループグループ長
2003年~2004年  (社)日本顕微鏡学会会長
電子顕微鏡の世界的権威。
世界最高の解像力を持つ「1MVホログラフィー電子顕微鏡」の開発を成功させた。日立入社以来、一貫して電子線装置に開発、及びその応用研究に従事。昭和49年から電子線ホログラフィーの研究に従事。現在、高温超伝導の謎の解明に興味。平成6年、英国王立研究所の「金曜口座」の講師に招かれた。
⟨受賞関係⟩
仁科記念賞、恩賜賞、学士院賞、フランクリンメダル、米国科学アカデミー外国人会員、文化功労者顕彰、他多数

   日本の産官学が、総力を上げて開発に取り組み、戦後一早く海外に輸出できる製品にまで育てあげた電子顕微鏡は、やがて性能・生産量の両面で世界一を誇るに至った。その高度な観察・計測技術が、日本の先端技術開発を支える上で大きな力となっただけでなく、光では対応しきれなくなったデバイスの検査装置にまで利用され、半導体産業などに直接貢献している。
   この電子顕微鏡に、今、新しい革新の波が押し寄せ、「これまで見えなかった小さな原子や分子が直接観察できるかもしれない。」と、世界中が色めき立っている。技術的に困難とされてきた無収差電子レンズの可能性が1998年ドイツで示されるや、それまで日本やヨーロッパに先を越され辛酸をなめてきたアメリカが、政府主導の基に次々と新しい政策を打ち出している。2001年、“TEAM”(Transmission Electron Aberration-corrected Microscope)プロジェクトを立ち上げ、エネルギー省(DOE)傘下のArgonne、Oakridge、Berkleyなどの5つの国立研究所に前例のない投資を行い、原子分子の観察などでナノやバイオの研究のイニシアティブをとろうとしている。2006年、これに負けじとヨーロッパもEU連合プロジェクト“ESTEEM”(Enabling Science and Technology for European Electron Microscopy)を立ち上げ、EU諸国間の連携と要素技術開発に着手した。こうした新装置の開発熱に伴って、産業面ではFEI(アメリカ、フィリップスの子会社)、CEOS(ドイツ、収差補正技術)、NION(アメリカ、収差補正技術等)の技術や生産が急激に高まり、日本を追い越す勢いにある。

   遅ればせながら日本でも文科省が電子顕微鏡検討委員会を設置し、その報告書に基づき2006年夏から要素技術開発プロジェクトがスタートした。現在、学術会議に於いて広くイメージング技術に関する分科会の検討が進められている。

   しかしアメリカでは、TEAMプロジェクトのはるか先を見た攻勢が続いている。5年を終了したTEAMプロジェクトが継続されただけでなく、2006年夏には世界中の電子顕微鏡の研究者をCornell大学に招いて「電子顕微鏡の性能はどこまで向上するのか?」を議論するワークショップが1週間にわたって開催された。さらに、3月初めにはDOEの主催で、40名の電子顕微鏡の研究者をワシントンに集めて、10年、20年先の次世代電子顕微鏡へのロードマップと投資について議論が行われたばかりの所である。この畳みかけるようなアメリカの攻勢に対して、日本は一刻も早く、数少ないお家芸の奪回に向けた長期戦略を立て、電子顕微鏡の開発研究の拠点を設けるなどの具体策を実行に移さねばならない。このまま事が推移すれば、ナノやバイオを初めとする我が国の先端技術に、影響がじわりと及んでくることは目に見えている。

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