- 2010-04-08 (木) 11:56
- イノベーションフォーラム21
と き :2009年3月27日
会 場 :東京新宿NSビル
ご講演 :シャープ(株) 代表取締役副社長 安達俊雄 氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
2009年度前期「21世紀フォーラム」の第1回は、「、シャープ副社長の安達俊雄さんの「未曾有の企業環境を生きる! シャープの経営の軸、未来成長戦略」というお話しであった。グローバルな長期的視点での雄大な内容であり、その中でシャープの経営を位置付けて、まさしく長期経営戦略であった。
4部の構成になっていて、第一部は、世界経済・環境・エネルギーと題してスケールの非常に大きいお話しであった。まずは、サブ・プライムローン市場が160兆円の規模と巨大であり、WTI市場つまりニューヨークの先物原油市場15兆円の10倍以上で、いかに金融市場が膨れ上がっていたかを示した。 次いで原油価格の動向について、国際エネルギー機関(IEA)の予測を紹介した。2020年にはバレル148ドルに上がり、長期的に高騰は止まらないという予想である。IEAは強い危機感を持っている。
こうしたエネルギー、資源などの価格上昇によって交易条件が変わるが、日本はかなり不利になってきているという事実を、グラフによって示した。つまり、輸出価格指数と輸入価格指数の比であるが、日本は輸入価格が上がって、輸出価格は上がらないので、交易条件が悪化している。韓国が日本と同じ傾向であるが、米国、ドイツ、イタリアはほぼ横ばいである。これは考えさせられるデータだ。日本はエネルギー、資源が価格上昇しても、輸出する製品の価格を上げることができない。そうした製品が主であるのだ
始めて見るたいへん興味が湧くデータを示してくれた。主要な各国の為替の動きを、それぞれ他国に対してマトリックスで表示したものだ。日本は、欧米、アジアのすべての主要な国に対して、円高である。一方、韓国はすべての国に対して、ウォン安である。これは、日本の産業の底力がとても強いことを示すものであり、喜ばしいのだが、国際競争力をさらに高めねばならないという緊張感を高めるデータである。意外であったのが、中国であり、日本以外の国のすべてに対して元高になっている。中国もなかなか強いのだ。
第二部は、環境・エネルギー問題の解決に向けてと題するお話しであった。まず、「一人当たりGDP」=「一人当たりエネルギー消費量」×「エネルギー効率」の式を基に、各国がどこに位置するかを図で示した。米国は、消費量が多く、効率はそれほど高くないが、日本と欧州は、効率が高く一人当たりの消費量は米国の半分である。日欧と米国にこれほどの違いがあるのは、初めて知った。問題はこれから発展する中国とインドであり、いまは消費量も効率も低いのだが、これからどの方向に進むのか。なんとしても、日本、欧州の方向に向けねばならない。
そこで、省エネルギーと創エネルギーがぜひとも必要であるとする。
創エネルギーの核になるのが太陽光発電であるが、世界での累積導入量のグラフでは、この数年の日本の伸び悩みと、ドイツの急上昇が顕著である。固定価格買い取り制度の有無がその差をもたらしたのだが、ようやく日本もこの制度を開始する。
第3部は、シャープの挑戦である。シャープは他社に先駆けて新技術に取り組んできたが、太陽電池もその一つであり、1959年に結晶太陽電池を開発した。宇宙開発用では断然トップであった。さすが歴史が長いのである。これまでの世界の累計生産量8GWの4分の1をシャープが生産している。もっとも今は競争がたいへん厳しい。いま世界では、400社が太陽電池の生産を行っている。
そこで、新技術である薄膜太陽電池を大規模の新工場を建設して、大量生産する。堺市に建設していて、720億円を投じて、1GWを生産するが、2010年3月に稼働を開始する。この工場は屋上に太陽光発電設備を設置して、発電能力は18MWであり、国内最大である。また対岸に、関西電力とともに、10MWの発電所を設ける。これは、これまでの住宅用太陽光発電中心からの大きな飛躍を思わせるものだ。
この堺コンビナートには、世界最大級の燃料電池、統合エネルギー管理センター、全工場のLED照明の導入、LED照明、廃熱、排水を活用する新農業を導入していて、エネルギー利用に多様な技術を生かす先端的な工場になる。
こうしてシャープは、温暖化負荷ゼロ企業を目指している。自社の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量を、太陽電池の創エネと新商品の省エネによる温室効果ガスの削減量が越えるのを目指すのであり、2010年には達成するという。
第4部は、世界経済の安定化に向けて-私の社会変動論であり、ガルブレイスの拮抗力論を基に、四つの拮抗の必要性を挙げた。金融経済と実物経済、既存エネルギーとカーボンフリーエネルギー、政府と民間、経済と倫理である。
全体を通して、豊富な資料を基に、まさしくグローバルで長期的なお話しであった。
森谷正規
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