Home > イノベーションフォーラム21 > 次世代ロボテイクスフロンティア・サイバニクスの開拓

次世代ロボテイクスフロンティア・サイバニクスの開拓

と き :2009年12月22日
会 場 :サイバーダイン社 (茨城県・つくば市)
ご講演 :筑波大学大学院システム情報工学研究科 教授 山海 嘉之氏
コーディネーター:放送大学 客員教授 森谷正規氏
 

 「21世紀フォーラム」2009(後期)の第4回は、つくば市にサイバーダイン社を訪ねて、筑波大学の山海嘉之教授に「次世代ロボティクスフロンティア・サイバニクスの開拓」のテーマでお話いただいた。つくば市まで出掛けたのは、開発されたロボットスーツHALを見せていただくためである。最近、テレビで時折見かける話題のロボットである。
 サイバーダイン社は、山海教授が代表取締役CEOを務めるベンチャー企業であり、平成16年に設立されたが、つくばエクスプレスの研究学園駅前にあって、壮大な建物である。入ると天井がとても高い広大な空間があって、日本企業のオフィス、工場にはほとんど見られないゆとりの大きい建物だ。まったく新しい技術とビジネスに挑戦する意気込みを見てとることができる。
 大学教授がベンチャー企業を起こすのは、米国では早くから非常に多く見られるが、日本では歴史が浅くまだ数少ない。米国では、特にバイオテクノロジーで多いのだが、このHALは、バイオテクノロジーと機械工学の結合であり、基礎研究から出発するので、大学の果たす役割がとても大きく、このような大学発のベンチャー企業になったのだろう。
 この10年来、産業用ロボットを越えるさまざまなロボットが開発されているが、大きな成果を上げているものはまだ少ない。いかなる用途に、どのようなロボットを開発するのかは、まだ模索中であると言える。その中で、企業化してビジネスに踏み出している数少ない例が、HALである。
 HALは、Hybrid Assistive Limbの略であり、体に装着する事によって、身体機能を拡張したり、増幅したりするロボットであり、福祉を始めとして、重作業や災害救助などに利用される。新型のロボットには、遊びなど目的が良く分からないものが多いが、これはまさしく実用的なロボットである。
 山海教授は、自らが創り出した設計思想である「サイバニクス」を説いた。既存の学術領域の枠に収まらない、人間を中心にした設計思想であり、非常に多くの分野の融合で生まれることを示した。脳神経科学、行動科学、ロボット工学、システム統合技術、IT技術、生理学、心理学、感性工学であり、さらに法律や倫理も関わってくる。人間と最も密接に結び付くロボット技術であるから、他の技術とは比較にならないほどの多くの領域を総合することが必要になるのだ。
 独創的な分野によるまったく新しいタイプの研究者の登場であるが、これが嬉しいことに日本発であり、山海教授は、海外でも高く評価されて、国際的に大活躍されている。ロボット王国日本の新しい可能性を示すものである。

 講演では、福祉施設における多くの実践を、ビデオで紹介された。腕や脚に装着するのだが、人に代わって大きな力を出す。そこで、ほとんど歩けなかった人が、一歩一歩着実に歩いたり、リハビリに用いて大きな成果を上げたり、歩けない人を背負って山に登ったりなどである。当人も周囲も、非常に喜ぶのが感動的であった。
 このHALの原理は、装着者の皮膚表面に張り付けられたセンサーで、手足を動かそうとして生じる微弱な生体電位信号を読み取って、ロボットを作動させるものである。HALを装着した人が動き回るのを見せていただいたが、健常者であり、その効能は良くは分からなかった。そこで、参加者に実体験をさせていただくことになり、数人が腕をまくってセンサーをつけて、自らロボットを動かした。見事に意思が伝わるようであり、みなが驚き、楽しんだ。
 このHALのような新しい分野を開拓してビジネスを成功させるに際して、大きな課題が二つある。一つは知的財産権の確保であり、一つは国際規格における日本のリーダーシップである。この点において、参加者といろいろと議論されたが、山海教授は、その重大性は強く認識していて、着々と手を打って来ているようである。新しい分野の新しいビジネスが生まれようとしているのを実見することができて、とても有意義であった。

森谷正規 

Home > イノベーションフォーラム21 > 次世代型補助人工心臓『エバハートの開発と実用化に向けた夢と苦闘』/  東京女子医大 山崎健二氏・ミスズ工業山崎壯一氏

メタ情報
フィード

Return to page top