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日本のロボット研究、その未来の可能性

と き :2008年6月13日
会 場 :森戸記念館
ご講演 :早稲田大学 理工学術院 教授 高西淳夫氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
 

   「21世紀フォーラム」2008年度前期の第4回は、「日本のロボット研究、その未来の可能性」であり、早稲田大学を訪問して教授の高西敦夫さんにお話いただき、数多くのユニークなロボットを見せていただいた。早稲田大学は、歩行ロボットの開発で著名な故加藤一郎教授以来、ロボットの研究開発に非常に大きな実績を持っているが、高西さんはいまその中心にある。
 ロボットの研究開発は、10年ほど前から二足歩行の実現から始まって人間に近づけるヒューマノイド研究の分野が大きく進んでいるが、早稲田大学は2000年にヒューマノイド研究所を設立して、高西さんがいま所長として研究をリードしている。
 まずは本部で高西さんの総括的なお話をいただいたが、それは日本人のロボットの受け止め方から始まった。日本では古くからカラクリ人形などが作られていて、ロボットを身近なものとして好んできた歴史があるが、さらに針塚での針供養の例を出して、針のようなごく小さなモノにも愛着を感じるのが日本人であるという説を披露して、印象的であった。
早稲田大学での研究の紹介に移ったが、ヒューマノイドとして研究に力を注いでいる一つが、“情”である。感情表出をロボットでいかに実現するか、そのモデルを構築して研究している。実物ではなく映像で見せていただいたのだが、まゆ、目、口などを動かして、喜び、怒り、驚き、悲しみ、嫌悪などの表情を表す情動表出ヒューマノイドロボットを開発していて、その顔の動きを見ることができた。このロボットは視覚、触覚、聴覚、嗅覚の四つの感覚を持っていて反応するのだが、そのオーバーな動きが面白かった。その開発目標は、心身統合メカニズムの解明である。メカニカルな動きと心理を結び付けようというものだ。
   昔からの二足歩行ロボットもより高度なものを開発しているが、ホンダのASIMOとの違いが良く分かった。ASIMOを始めとして二足歩行ロボットは、膝を曲げて、腰を落として歩いている。少々、格好が悪い。だが、早稲田のWABIAN-2は、腰をあまり落とさずにスッキリと歩く。高西さんの説明で、その違いが分かったのだが、ASIMOは、歩行の安定性を保つために、膝を伸ばし切らないようにして、不測の事態に備えている。したがって、通常は膝を曲げて歩く。一方、WABIANは、腰の部分にも自由度を持たせる仕組みを組み込んでいる。したがって、膝を伸ばして歩いても安定性が保たれるのである。
   研究室では、WABIAN-2に加えて2本足の人体移動ロボットを見せていただいた。人を乗せて動くロボットだが、運輸、医療、福祉、娯楽などでの利用を目指している。片足が二本で構成された前後に長い足を持っているので、二足でも安定性が大きい。凹凸のある路面、多少傾斜した路面でも歩くことができて、体重60キロの人を乗せることができる。公道での実験も行っているが、さて、いかに実用化に進めるのか。商品としては、まだ大きくて不格好である。
   ロボットには、非常に多くの多彩な実用可能性があるのだが、早稲田大学は、メディカルロボットの開発にも力を注いでいて、それは東京女子医大との共同研究であり、共同で建設した新しいビルの中に研究室がある。そこも訪ねる忙しい会であったが、たまたまこの共同研究ビルの建設に力を注いだ研究者がいて、その意義の説明を受けた。広い跡地があって、早稲田大学と東京女子医科大学が共同で購入して研究設備を作ることになったのだが、それは別個のビルとして計画された。だが、共同研究であるからには、一つのビルにすべきとの強い主張が出た。しかし、文部科学省は、前例がないと渋った。それを強く説得して、建設に漕ぎ着けたという。
 ここには、脳手術のためのマニピュレータ、穿刺手術用知的マニピュレータなどの手術支援ロボットなど精緻なロボットの研究開発があり、また歩行支援ロボットなど実用的なロボットの開発も行われている。どれも近い将来の実用化を目指した開発である。
 ロボットの研究開発は、実に幅広いものであることが良く分かった一日であった。大学の役割は、遠い将来の実用化を目指した基礎的な研究から、特殊な分野であり企業がなかなか手を出しにくい分野など、幅広く研究開発することであり、企業は大学と組んで開発するのが有力な方向であると実感できた。

(2008年8月 森谷正規)

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