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クレハのスペシャリティ製品開発とグローバル展開/クレハ 社長 小林豊氏

《と   き》2013年12月12日

《訪問先 》(株)クレハ いわき事業所(福島県・いわき市)
 
《講  師 》(株)クレハ  代表取締役社長 小林豊氏
《コーディネーター》テクノ・ビジョン代表、元帝人(株)取締役 研究部門長 相馬和彦氏

 

 2013年度後期の第2回は、12月12日にクレハのいわき事業所を訪問した。いわき事業所には、平成20年2月に一度訪れたことがあり、その時には加治久継特別顧問(前副社長CTO)および重田昌友取締役専務執行役員、技術・研究本部長のお二人より、世界オンリーワンの技術開発を目指し、独自技術に拘った自社技術開発によって継続的に実績を挙げてきた技術者の思いと歴史が詳述され、ものづくりに携わる技術者として強い印象を受けた。今回は世界オンリーワン技術の追求による成功と失敗を教訓とし、それを生かしながらグローバル展開することによって、更なる進化と発展を目指すクレハの経営方針をお聞き出来ることを期待して訪問した。

 最初に代表取締役社長 小林豊氏および取締役 専務執行役員 生産本部長 生産本部いわき事業所長 佐川正氏のお二人から歓迎のご挨拶があった。

 クレハは1934年に昭和人絹として創業され、1944年に呉羽化学工業として独立し、その後現在のクレハに社名変更された。生産本部いわき事業所は、多くの製品の製造拠点であり、またR&D本部、エンジニアリング本部など重要機能の拠点でもある。従業員は本体が約1,200名、内研究所に約200名が在籍している。それ以外に、地域医療に貢献しているクレハ総合病院や関係会社に約2,000名が勤務しているので、全体では3,000名規模の陣容である。いわき事業所で、クレハ製品のほとんどの原料が生産されているため、3.11には大きな影響を受けた。従業員の努力により、7月下旬にはフル生産を回復することが出来た。

 歴史的な経緯もあり、いわき事業所は地域との結びつきが強い。そのため、信頼感育成のための努力や投資の継続を続けている。

 次に事業所紹介のDVDを見た。事業所は111.5万㎡と広大な土地にある。塩の電気分解で水素と塩素を製造し、この塩素と塩化ビニルを反応させて塩化ビニリデンを合成する。ここから包装用ラップフィルム(「クレラップ」)、ソーセージなどの食品包装用フィルムなどの製品群が作られる。医薬分野では、ガン治療薬として「クレスチン」を、慢性腎不全治療用に球状活性炭吸着剤(「クレメジン」)を製造している。その他にも、農業用殺菌剤、電気部品用ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ピッチ系炭素繊維(「クレカ」)、Li電池用電極(「カーボトロンP」)、などの製品が作られている。

 技術開発を担う組織として、総合研究所、農薬研究所、新材料研究所、PGA(ポリグリコール酸)研究所、加工技術センター、特別研究室などを有している。

 また1995年にはレスポンシブル・ケア(PC)の実施を宣言し、環境・品質、保安・安全、地域社会貢献などにも取り組んでいる。

 ビデオ上映後に、クレハの主要製品である機能材、炭材、医薬について、それぞれの製造部長または事業部長から紹介がなされた。

1.機能材(岩村製造部長)

 フッ化ビニリデンポリマーは耐熱性、耐薬品性、耐候性に優れている。フッ化ビニリデンの重合でhead-to-tail構造を多く含むことが出来るため、結晶性や融点が高くなる。また、脱フッ化水素反応が起こると二重結合がポリマー中に出来るため、接着性も向上する。

 CH3CF2Clの脱塩化水素反応により、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーを4,200T/Y、ポリマーを4,000T/Y 、VDFと助剤を水中に懸濁する懸濁重合によって製造している。

 成形品はバルブ、中空糸、Liイオン電池用バインダーに、糸として釣り糸(「シーガー」)に使用されている。

 中国に5,000T/Yの工場を建設中で、2014年に稼働する予定。

2.炭材(増子事業部長)

 石油ピッチをベースとした炭材を展開している。製品としては、リチウム電池用「カーボトロンP」、ガス吸着や水質浄化用球状活性炭(BAC)、血液浄化用球状活性炭「クレメジン」(F-AST)などがある。

 これらの製品は、高耐久性、高入力特性で評価が高く、1,000T/Yおよび500T/Yの製造設備で作られている。

3.医薬(小泉事業部長)

 カワラタケから抽出した多糖類「クレスチン」はガン治療薬として、球状活性炭「クレメジン」は慢性腎不全の治療用に使用されている。後者は尿毒症の防止やインドールなど吸着用への適用拡大などを期待している。

 次いでバスで移動しながら、分析センター、岩塩露天貯蔵所、各種プラント、自家発電設備、研究所、研修センターなどを車中より見学した。クレスチン工場は常時運転せず、必要量のみをその都度生産している。また、電力コスト低減のため、夜は売電で、昼は自家発電で対応出来るよう生産工程を工夫している。

 

 工場見学から戻り、「クレハのスペシャリティ製品開発とグローバル展開 -その軌跡と今日の挑戦-」と題する講演を、代表取締役社長 小林豊氏から頂いた。

 クレハの歴史は1934年の昭和人絹設立に始まり、1939年に東洋紡績が吸収合併して呉羽紡績となり、1944年に呉羽紡績から独立して呉羽化学工業となった。その後2005年にクレハに社名変更した。

 資本金は124億6千万円で、2013年3月末の従業員は単体で1,687名、連結で4,046名である。関連会社は、関東から東北一円に24社が集中している。

 連結売上は、2013年度末の見込みで1,430億円、事業別内訳は機能材23.1%、化学品24.5%、樹脂30.3%、建設・その他22.4%となっている。

 海外グループは、連結13社、持ち分1社、その他2社で、欧州、北米、中国、ベトナムで、樹脂や機能製品を展開している。農業用殺菌剤は自社で作らず、全量引取契約で委託生産している。

 リーマンショックで市場構造が変化し、機能事業は赤字化した。それまでは高機能・高価格の製品で国内事業を開拓し、それをグローバルに展開して来たが、このモデルが成り立たなくなった。高機能・高価格と低価格・そこそこ機能の2正面路線展開が必要となった。そこで目標を、「ニッチ市場でグローバル#1」に変更した。

 過去の経験から、一回作ったものはその時の用途で失敗しても、諦めずに継続することが鍵だと考えている。継続していると、必ず新しい用途が出てくる。

 1952年に塩化ビニリデンに着目し、ダウ社から導入しようと試みた。しかし、ダウ社の技術は旭化成に取られてしまい、それならば自社の技術を作って技術立社しようと決心した。原料となるエチレン、アセチレンの自給を目指して原油分解法を開発したが、当時はナフサ分解法にコストで敵わず、中止するに至った。しかし、そこで培った技術を活用して、炭素繊維、活性炭、Liイオン電池負極などを開発して生き残った。

 機能製品を事業化する場合には、value-chainを分析し、レジンで売るか、成形品で売るかなど、価値を極大化する方法を検討する。付加価値を付けるためには、材料売りに拘らず、最終製品にも進出することにしている。

 ソーセージ用パッケージの事業化では、自社で包装用機械および包装技術を開発し、顧客に技術を教示した。当初はこのやり方で利益が出たが、数年経過すると顧客は他社フィルムを使うようになって旨味が減った。オンリーワン開発者として、損得をどうやって克服して行くかが今後の課題である。

 また過去のオンリーワン技術の開発では、功罪両面があった。原油分解では、困難な開発を行うことで技術者魂が醸成されたが、同時に事業中止による経営危機を招いた。「クレスチン」はそういう会社を経営危機から救ったが、同時に合成医薬での成功を目指して進出した結果、失敗を招いてしまった。成功体験と失敗体験は常に表裏の関係にある。

 このような成功と失敗の経験から、教訓として学んだことは、

①開発チャレンジ精神は、維持・強化する。

②開発製品に対して、市場で勝てるあるいは必要とされる事業シナリオの策定。

③自社単独開発と他社アライアンスをテーマ毎に仕分ける。

 シーズとニーズを適切に出会わせることを目指すが、闇雲にやるのではなく、開発分野として資源、環境、健康に集中し、右顧左眄しない。

 諦めずに継続していてシーズがニーズに出会った例として、PGA(ポリグリコール酸)がある。20年程前にPETボトルのゴミを見て、生分解性とバリアー性のバランスしたポリマーとして開発した。手術用縫合糸の用途は見つかったが、量的には少なく、棄てる容器へはコスト要求が厳しく、採算に合わない時期が続いていた。止めずに継続していた所、米国でシェールガスのブームが起き、この用途に採用されて米国での製造に至った。

 

 今回は講演内容が豊富だったため、質疑応答の時間が割けなかった。質疑はライトパーティーで個別に行うこととし、講演および見学はここで終了となった。

 

 前回のクレハ訪問では、ものづくり企業の根源たる技術開発が、研究開発者を燃える集団に変える具体例をお聞きし、その基本となる技術経営が首尾一貫していることを知り、ものづくりに携わる者としては強い感銘を受けた。今回はオンリーワン技術開発のプラス・マイナスの両面を具体的に知ることが出来、課題を克服しながらプラス面をどう維持・強化していくかの本音もお聞きすることが出来た。

 本年6月の旭化成富士研究所訪問でも記したが、独自技術を継続して生み出す企業の共通点が、今回のクレハ訪問でも再確認出来た。

「成功とは、成功するまで続けることである」(松下幸之助)

(文責 相馬和彦)

 

 

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