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HORIBAの成長を支えるワンカンパニー経営・・・堀場製作所

と き:2011年6月7日

訪問先 :(株)堀場製作所 本社工場 (京都・南区)
 
講  師 :代表取締役社長 堀場 厚氏
コーディネーター:テクノ・ビジョン代表、元帝人(株)取締役 研究部門長 相馬和彦氏

堀場製作所(株)堀場厚社長 2011年度前期「異業種・独自企業研究会」第3回は、2011年6月7日に、京都市南区にある堀場製作所の本社工場を訪問した。東北大震災の直後に予定されていた第1回のバイエル薬品は、開催時期が変更されたため、今回は実質的に第2回である。
 本社で受付を終え、堀場社長にご挨拶した後、本日の講演・見学を担当して下さった方々との打合せを行ったが、その短い間でもこの会社固有な企業文化とも言えるいくつかの特徴に気付かされた。まず、受付を含めた社員の方々の対応が、実に丁寧で心が籠もっていたことである。このことは、我々が堀場社長をお訪ねしたためでないことは、日常的に堀場製作所と取引があり、頻繁に訪問している本研究会会員の発言からも裏付けられた。移動中に偶々すれ違った社員の方々からも、いちいち丁寧なご挨拶を受けたことも、こういう対応が企業文化として定着していることを示している。異業種・独自企業研究会では、今日までに数多くの企業を訪問したが、ここまでの企業文化を有する企業はそれほど多くはない。そういう文化・風土を有する企業は、例外なく独自の優れた技術や製品を有していた。

 更に、講演や見学の運営には何人もの女子社員に参画していただいたが、女子社員が秘書的な仕事に限定されず、男性と同等の立場で発言し活躍していたことも注目された。本日の講演会の全体司会も女性社員に任されており、これも堀場の企業文化であろう。そのため、実際に講演や見学が始まる前から、今日は特別な経験が出来るのではないかとの期待が膨らんだ。その期待は、以下の要約に記載されているように、全く裏切られることがなかったばかりか、期待を超える感動的な体験が出来た。

 DVDの後、齋藤壽一取締役・経営戦略本部本部長が、会社概況について説明された。創業は1945年10月17日であるが、会社設立は1953年1月26日。資本金は120億円、連結での従業員は5,202名、2010年度の売上1,185億、営業利益122億、ROE9.7%、R&D投資は売上対比8-10%である。社是は「おもしろ おかしく」、”Joy and Fun”にしているが、モノ造り企業の社是としては、極めて特徴的である。

 最初は電解コンデンサーの開発研究をやっていたが、朝鮮戦争勃発で断念し、代わりにpHメーターの国産化を試み、1950年に事業化に辿り着いた。

 1953年に会社を設立、1996年にABX社、1997年にはジョパン・イボン社(仏)を買収し、グローバル企業となったため、2003年には社名をHORIBAに統一した。事業を5つのセグメント(自動車計測、環境・プロセス、医用、半導体、科学)に別け、それぞれのセグメントでの安定成長を目指している。HORIBAグループには37社あるが、人員の国別比率では、日本44.3%、仏18.6%、中国10.1%など、日本は50%を切っており、事業と地域のマトリックス経営を行っている。

 2010年策定の中長期計画では、「安定成長と高収益」を目標としている。

次いで、堀場厚代表取締社長より、「HORIBAの成長を支えるワンカンパニー経営」と題した講演をお聴きした。堀場社長は、部下が作成したパワーポイントなどの資料は全く使わず、プロジェクターによるプレゼもなく、すべてご自分の言葉として最後まで講演された。過去の異業種・独自企業研究会での訪問において、全く資料を使わずにご自分の言葉のみで講演された例は、平成19年6月のキッコーマン茂木友三郎代表取締役会長兼CEOの講演を含めて、極めて数が少ない。業績や経営内容などのデータ的な説明は、前の齋藤壽一取締役に任せ、経営の本質的な部分に集中して話されたため、大変中身の濃い内容となった。以下に要点のみ纏めた。

1.国際化について

国際化がキーとなり、会社設立以来60年間成長出来たが、最近では国際化もほどほどでないといけないと思うようになっている。
5つの事業セグメント(自動車計測、環境・プロセス、医用、半導体、科学)の内で、環境のみが本社にあるが、売上比率は10%程度であり、その他の4セグメントは本社外にある(海外と日本支社の組み合わせ)。最近ある自動車メーカーの経営者と話した際に、「今回の大震災で分かったのは、カンバン方式をやっていたのは自動車メーカーのみで、サプライヤーは皆ストックを有しており、それが大震災後に部品供給で助かったこと」と言われた。このような事態を含め、海外生産の品質維持とサプライのリスク分散をどうやるかが大きな問題となっていることがその背景にある。

2.リーダーシップについて
 リーダーには、open & fairな判断が必要。様々なカルチャーを持ち、育ち方をした人達を束ねるには、特にそれが求められる。社是に「おもしろ おかしく」を定着させたが、開発系企業には、これが予想外にすんなりと受け入れられた。この社是の決定には、多くの議論があったが、堀場雅夫現最高顧問の決断で決まった経緯がある。

3.買収について
 堀場が買収した案件は、こちらが仕掛けたのではなく、相手から提案して来たものである。それが永続的に良い関係が保てた理由だと思う。ABX社は医学用に強く、堀場は弱かった。ジョパン・イボン社(仏)およびカール・シェンク社(独)は堀場にない技術を有していた。そのため、買収後に相手を堀場の技術優位性で保持することは難しく、マネジメントに頼るしか方法はなかった。 [horiba2]
 ジョパン・イボン社の場合では、フランス人の味への関心が手助けになったのではないかと思っている。京の老舗割烹の客への対応は、客の好みを知り、その日の材料で最上の味を提供することにあり、堀場の経営思想に相通じるところがある。
相手の食の理解が人の理解に通じるので、食の文化は大切である。小学生でも、朝食をキチンと食べる子と食べない子では、成績に差が出ることが分かっている。

4.社員教育について
 事業は戦いである。従って、戦略が重要となる。良い物を作れば売れるという考えは、ある規模までは通用するが、それからは良い物を作るだけでは不十分。会社としてのバランスが大切になる。
 社内で公募し、毎年15人は海外へ出している。現時点での海外経験者は、役員で60%、役職者で30%、社員で10%となっている。

5.錦の御旗
 努力が自分の幸せであることを、日々体感出来る企業風土が大切。社員はどうしてもアプリケーションに走り勝ちになるので、コア技術をしっかりと押さえることが必要となる。アプリケーションばかりやっていると、いつの間にか時代に乗り遅れることになる。一つの例として、小型携帯式の放射線測定器がある。元々は原発を中学生が見学した際に、この測定器で放射線を測り、原発が如何に安全に運転されているかを教えるために開発したものである。小型だが本格的なシンチレーション機能を採用しており、大型測定器と同等の高精度測定器である。
 今までは年間150機程度しか売れなかったが、東北大震災に伴う原発事故の後は、注文が殺到して3ヶ月待ちの状態となっている。

6.発展途上国での対応
技術向上と時間が早い。そのため、①相手の先を行く、②相手の懐に入る(つまり買収)で対応していく。
 講演内容が深くかつ本質を突いていたため、多くの質問が出された。そのため、質疑応答時間がかってない45分という長時間に及んだが、堀場社長は一つ一つに丁寧に回答頂き、示唆する内容が豊富だった。要旨のみを下記に纏めた。

  • ① 堀場のグローバル経営では、事業と地域のマトリックス経営を行っているが、マトリックス経営は実施面で難しい点が多いはず。それをどのように克服しているか?
     → 確かに簡単ではない。マトリックス経営方針を説明すると、日本人は分かった顔をするが、外人は二人ボスとなるので、納得し難いという顔になる。しかし、現実はやっている。泊まり込みの合宿などを含めて、繰り返し繰り返し説明し、理解させるようにしている。
  • ② アプリケーションとコア技術の両立は、業績重視の経営環境下では簡単ではないが、どのようにして両立させているか?
    → 堀場は大企業ではなく、偉大な中小企業になりたいという意志を持っている。これは京文化と関係している。京都では、料亭での経営者の会合で、誰が上座に座るかについて不文律がある。東京のように、役人や大企業経営者が上座に座ることはない。上座に座れるのは、a)どれだけ歴史のある企業か(それだけ長く事業を継続させたという実績)、b)年齢、の二つで決まることになっている。つまり、本物でないと長続きしないと判断される。そのジャンルで1番かどうかということである。堀場はそういう企業を目指しており、コア技術は料理のダシのように、必要不可欠のものと認識している。
  • ③社員教育で重要なことは何か?
    → 社員は一人一人違う。スーパーマンは要らない。しかし、金太郎飴も要らない。あなたの特徴は何か?を常に問うている。例えれば、ステンドグラスのようなものだ。一つ一つのガラスの破片は全部異なっており、破片自体は綺麗ではないが、全体が組み合わされると、見事なステンドグラスになる。社員教育の基本は、一人一人にオーナーシップを持たせることに尽きる。
  • ④M&Aでは相手企業が買収を持ちかけてきたとのことであるが、その理由は何か?
    → 相手企業は名刺で人を判断せず、その人の名前と内容で判断せず、その人の名前と内容で判断する文化を持っていた。堀場はこういう文化にプラスして、更に日本的文化を持っていたことが認められた理由であろう。中国工場では、どこでも休む旧正月にも、社員が自主的に出社して働いて呉れた。社員に強制したのではなく、中国工場の位置づけをはっきりと社員に話していたため、社員が独自に旧正月の稼働が必要だと判断した結果である。
  • ⑤グローバル人材の育成方法は?
    → 英語を話すことではない。日本文化や歴史を誇りに思っている人でないと駄目。海外迎合型の人間は、現地でなめられてしまう。猛獣使いと同じで、ムチは振るうが体には当てない。つまり、プライドまでは傷つけないこと。肩書きで働く人は駄目だ。

講演後に本社工場の見学を行った。時間の関係で、見学は自動車計測のテストラボと分析センターの2ヶ所となった。

  • ① 自動車計測 テストラボ見学風景
    エンジンテスト、排ガステスト用のラボが全部で4つあり、エンジンはガソリンとジーゼル用テスト機が各1機ずつ備えてあった。
    ジーゼルエンジンテスト機を見学したが、ダイナモモーターで負荷を掛ける方式で(独シェンク社の技術)、顧客にはテストシステム一式として納入する。粒子状物質の質量と一定サイズ以下の粒子数を分析出来る。
    排ガステスト基では、希釈ガスとして外気を触媒使用によって清浄化して供給するシステムが付属しており、心臓となる分光器が堀場製、その他の部品は協力会社および外部から購入し、最後の調整を堀場で実施後販売している。
    これらのシステムに必要なソフトは、グローバルに開発している。中止は英国で、それに独、米、日が協力する体制を持っている。現在のシェア-は80%であるが、これは他社よりも早く上市し、かつシステムとしてユーザーに供給したため。
  • ② 分析センター
    懐かしいpHメーターを含め、各種の分析機が並んでいた。ラマン顕微鏡、粒子径分析装置、元素分析機、血糖値測定器、マスフローコントローラー、放射線測定器、蛍光X線分析機など最新の分析機器を見学した。

 見学会終了後、ライトパーティーに移ったが、創設者の堀場雅夫最高顧問が出席下さり、堀場がグローバルに発展する上で、あくまで「おもしろ おかしく」を追求して良い商品にこだわり続けた創設者の経営と、創設者の考え方に反して、自動車計測を追求した現社長のやり方を、反対はしながら見守った経緯など、当事者しか分からない堀場の原点とも言えるエピソードをお聴きすることが出来た。

 本日の訪問では、堀場の経営思想をトップから直接お聴きすることが出来た。堀場独特の考え方は、実は京文化を企業文化に反映させたものであることが良く理解出来た。また、日本独自あるいはその企業独自の良さをとことん追求すれ

ば、それが広く世界で受け入れられるというお話しは、多くの日本企業がグローバルに発展しようとしてややもすれば忘れ勝ちになる核心を突いていることに、改めて気付かせられた。

 この考え方は、グローバル人材の育成方法にも反映されており、日本文化や歴史に誇りを持っている人材でないと、国際的には通用しないこと、あなたは何が出来るか?を絶えず社員に問うことで社員が成長することは、全面的に頷ける合理性を有している。

 事実、女性を含めた本社の従業員が生き生きと活動している様子を見、パーティーに出席したフランス人が、堀場に買収されて良かったと言っているのを聞くと、「おもしろ おかしく」という社是がグローバルで社員に受け入れられ、努力することが社員の生き甲斐となっている様子が容易に想像出来た。
 京都には独自の文化を有するグローバル企業が多い。今回の堀場製作所は、それを支える京都文化の奥強さ、国際性を再認識した訪問となった。

 (文責 相馬和彦)。

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