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‘21世紀型ビジネスモデル’の構築・・・三菱ケミカルホールディングス

と  き:2011年2月22日


訪 問 先 :三菱ケミカルホールディングス(株) ケミストリープラザ (東京・田町)
 

講   師 :代表取締役社長 小林喜光氏

コーディネーター:テクノ・ビジョン代表、元帝人(株)取締役 研究部門長  相馬和彦氏

 

 2011年度後期第5回は、平成23年2月22日に、東京都港区にある三菱ケミカルホールディングスの本社を訪問した。今回は、「異業種・独自企業研究会」と「イノベーションフォーラム21」の合同で開催された。三菱ケミカルホールディングスは、傘下に三菱化学、田辺三菱製薬、三菱樹脂、三菱レイヨンを有する総合化学企業として、国際的に有数の規模(世界で5位)を有している。当日の後援者である小林喜光社長は、記録メディア事業を担当していた時、赤字続きの事業を見事に立ち直らせたことで知られており、社長就任後に提唱したMOSやKAITEKI価値は、企業の新しい価値基準として注目されている。今回は異業種とイノベーションの合同開催であることも加え、参加者は90名に達し、関心の高さが伺えた。記録メディア事業を立ち直らせた戦略的経営、その後のMOS提唱の背景にある思想をお聴きできる絶好の機会として、大きな期待を持って訪問した。

 講演に先立ち、本社内にあるケミストリープラザを見学した。ここは、顧客に三菱ケミカルホールディングス社傘下各企業の製品を説明するために設定されているが、展示されている製品は極めて多岐に渡っている。樹脂、フィルム、LED、色素、炭素繊維、バリアー材、リチウム電池部材、健康製品など、幅の広い製品群を見ることが出来る。近年欧米で盛んに言われた「選択と集中」とは逆の世界が展開されている。元々別企業であった三菱化学が、田辺三菱製薬(2007年10月)、三菱樹脂(2008年4月)、三菱レイヨン(2010年4月)を吸収し、持ち株会社として三菱ケミカルホールディングス社が設立されたが、欧米で行われてきたようなコア事業の選択と非コア事業の売却などの方法は取られず、グループ内各社を並立させる方策が選ばれた。この辺りは、欧米方式とは異なり、雇用と安定を優先させた経営方針であることを示している。今後はグループ全体として、製品、技術、営業、経理などの横断的最適化が実施されて行くものと思われる。

展示品の中にコンセプトカーがあったが、これは各社の持っている様々な素材を組み合わせて作った一例である。樹脂比率は60%に達し、重さも従来素材では1.5トンのものが、0.9トンまで削減出来た。

DVDによる企業の歴史、製品紹介の中で、目指すのはNo.1 chemical solution companyであるとの目標が提示されていた。

見学終了後、小林喜光社長より、「日本の新たなグローバル・アドバンテージとなる、開発戦略と事業戦略の構築」と題した講演をお聴きした。

  • 三菱ケミカルホールディングス(MCHC)紹介

MCHCグループは、2010年3月期実績で、連結売上高2兆5151億円、従業員53,907名、事業は素材、機能商品、ヘルスケアの3分野にわたっており、各分野の売上高構成は、2011年3月期予想でそれぞれ51%、26%、16%、その他9%となっている。三菱ケミカルホールディングスは、三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの100%、田辺三菱製薬の56.3%の株を保有し、上場企業は三菱ケミカルホールディングスと田辺三菱製薬の2社である。

小林社長は日本の競争力強化委員会に参加しているが、コンセプトクリエーションの出来る経営者が少ないと感じている。また、グローバルな仕事をやるためには、プロジェクトエンジニアリングのスペシャリストが必要であるが、実態はお粗末な状況となっている。

sustainabilityは世界の流れであり、ダボス会議でもkey wordとなっている。MCHCでは、グループのモットーとして、sustainabilityを強調している。

事業を3分野に設定していることは、選択と集中を主張するアナリストには評判が悪いが、今後も3本柱でやっていく。1本柱に集中して過度に依存するのは、経営上むしろリスクが大きい。

  • 光ディスク事業におけるグローバルビジネスの構築

 1990年にUSコダック社より、米国合弁の相手であるVerbatimを買収した。記録メディアでの営業にはグローバル展開が必要と判断した先輩が居たお蔭である。三菱化学には、20年以上の光ディスク研究から、マスタリング技術、色素技術、相変化記録膜技術、ディスク化技術など優れた基盤技術を有していたが、商品サイクルの短さによる過当競争で価格が急激に低下し、事業自体が赤字に転落していた。

事業責任者に任命された時、「一年以内に黒字化」という使命を受けた。赴任してみると、事業は「茹でカエル」の状況にあり、このままでは死んでしまう、何かポジティブな行動を取らせる必要があると判断し、カエルの近くに蛇を出現させることにした。それが、必達目標の設定であり、ROS5%であった。何が何でもこれを達成することを目標とした。

そのためには、モノ造りからコト造りへの転換を決め、自社が培った製造技術の強みを最大限活かして、市況変動により不安定となりやすいメディア販売利益のみに頼らず、関連技術(技術販売一時金、ランニングロイヤルティ、色素・スタンパー販売利益)が収益を底支えするビジネスモデルを設定した。日本はR&Dで技術力を強化し、生産は台湾やインドにODM生産委託し、販売は自社で行うこととした。

記録メディア事業では、一年目のシェアが80%あっても、2~3年で20~30%に落ちるように、1~2年で追いつかれ、マネされてしまうので、常に新しい技術を出し続ける必要があった。

商品サイクルも2~3年と早い業界なので、技術をIP化しても金にならない。KHのcash化が第一であった。このビジネスモデルも、2002~2005年に通用したモデルであり、今では違うモデルが必要になっているので、このモデルは別の事業に活用しようとしている。例えば、欧州で強いVerbatimブランド(DVD-Rシェアが43%)でLEDを発売し(2010年9月発表)、更には有機EL照明事業に繋げたい。

  • 新たなグローバル・アドバンテージとなる持続可能な経営に向けた挑戦
  • MOSの提唱とMOS指標の導入

日本の産業が得意としてきたアナログの高度摺り合わせ技術は、製造業のデジタル化に伴って進むモジュール化への対応で、遅れが否めない。また、新興国と先進国との2面作戦を戦う必要がある。これらを克服し、持続的な成長と収益を確保するためには、sustainabilityとinnovationが鍵になる。

世界人口の増加見通しをベースとし、供給可能なエネルギー資源埋蔵量、水の供給量を予測すると、sustainabilityの確保は必須の条件となる。そのために、MBAで利益を求める「欲」(CFOの役割)、MOTで技術を極める「知」(CTOの役割)以外に、MOS(Management of Sustainability)で「義」を求めること(CSOの役割)が必要になる。それをベースにすれば、CEOがKAITEKI価値を追求することが可能となる。MOS指標は、sustainability、health、comfortの3つで計られ、MCHCの企業価値は従来の売上、利益、成長率、ROA、ROEなどの指標とMOSの和で決まると位置づけた。

  • KAITEKI社会へ向けた創造事業

 リチウムイオン電池、太陽電池などはどこでもやっており、ここでは儲からないだろう。何か静かに儲ける道はないだろうか? PMMA、MMA、テレフタル酸などはどうか?

 次の成長ドライバーとして、早期事業化を考えているのは、有機太陽電池/部材、サステイナブルリソース、有機光半導体、高機能新素材、次世代アグリビジネス、ヘルスケアソルーションなどがある。

 有機太陽電池では、変換効率向上を2010年10%、2015年15%、20XX年20%以上を目指しており、最近のデータは8.0%と世界最高水準を達成している。東大の中村研と共同研究を実施中。

サステイナブルリソースでは、GS Pla®(ポリブチレンサクシネート)、Durabio TM(イソソルバイドのコポリマー)などのバイオポリマーの操業化を検討中。

有機半導体では、有機EL照明を2011年に上市予定。次世代アグリビジネスでは、太陽電池、蓄電池、LEDで光源電源を独立させ、電力コストや炭酸ガス排出の削減に貢献したい。ヘルスケアでは、疾患治療へのソルーションおよび疾患予防ソルーションの双方に貢献するため、医薬品、診断サービス、医療の3分野で研究開発を進めている。

  • 地球快適化インスティテュートと新・炭素社会の提案

地球快適化インスティテュートは世界中のネットワークから情報を集め、世界の最先端の研究者と研究ネットワークを作ることを目標に、2009年4月に発足した。Sol、Aqua、Vitaをキーワードとして、研究機能の委託やシンクタンク機能を有し、地球規模の課題に答える解決策の提案や社会への発信を行っている。活動領域は環境・資源・エネルギー、水・食料、健康の3分野に設定し、第一の分野では新しいエネルギー・資源の開発、高エネルギー効率マテリアル・デバイスの開発を、第二の分野では水・食糧問題解決への貢献を、第三の分野では快適化の科学、未来の社会、新しい医療に関わる技術開発を研究・調査中である。

またグリーンイノベーションでは、新・炭素社会構築のため、脱化石燃料を目指し、メタノール、一酸化炭素、メタン、バイオマス、更には炭酸ガスを炭素源とする新・炭素原料から化学品を創製する取り組みを始めている。

次世代の産業は、ケミカルの「化学の世界」とエレクトロニクスの「物理の世界」の融合領域から生み出されるものと考えているので、化学の貢献が大いに期待される。

また、多用な事業・製品群を有するMCHCグループでは、現在のものをそのまま続けるということではなく、今後は育成事業、成長事業、キャッシュ生みだし事業、再編成・再構成事業の4つに事業を分類し、4次元管理を行う必要があると考えている。

講演内容が多岐に渡ったが、経営方針が明快かつ論理的であったため、理解し易かった。そのため、質問も多く出されたが、要旨のみを下記に纏めた。

  • 日本企業は優れた素材や部品・デバイスを供給しているにも拘わらず、市場での存在感が少ない。部材だけでなく、それを使用するユーザーや異なる文化を持つ社会へ、トータルシステムとして提案する力が不足しているのではないか? これを回復する要件は何か?

→ 企業がそういう方向で開発することは勿論必要である。それ以外に、国家として纏めるstate capitalismと企業が連携して動くべき。韓国モデルで示される通り、設備やR&Dで企業レベルを超える投資が必要となっている。

  • 多用な商品の営業と個別ユーザーとの接点は複雑にならないか?

→ 日本生産のコモディティは止めた。ヘルス・機能商品分野は今後整理が必要だと認識している。シーズとニーズの摺り合わせは今後検討予定。

 ③先進素材を企業の壁を越えて摺り合わせすれば、日本の強みになるのではないか?

  → 具体化しにくいと思う。日本では、vendor-supplierの関係で絞ってしまい勝ち。ただユーザーも変わりつつあるので、今後は変化するかも知れない。

④今後益々進むグローバル化で、人材の育成はどのようにやっているか?

 → 社員の階層毎にそれぞれ教育の場が作られているが、最後はOJTしかない。

 その場合、仕事への緊張感を持たせて教育する必要がある。

⑤(外資系大手化学企業の日本トップに、自社と比較した今回の講演内容へのコメントを依頼)

 → 自社は選択と集中により2事業にフォーカスしたので、事業分野はMCHCグループよりも少ないが、その他の考え方は良く似ている。

 今回の講演は、内容の豊富さと思考の深さで印象深いものであった。国内企業では、コンセプトの創造が不得手な経営者が多いと最初にコメントされたが、ご自身はその例外であることを如実に示した内容であった。MOSの提案で、「義」のある経営を強調されたが、これはROAやROE重視の経営ではすっぽり抜けてしまった概念である。元々日本の商人道では、家訓や社是として、顧客の満足、社会から生かされている事への感謝、従業員や地域の大切さなどが強調されていた。バブル後の自信喪失から、米国流のROA重視、株主優先の利益追求に走った企業も少なくなかったが、それが三菱ケミカルホールディングスのような日本を代表する企業で明確に修正されたことは、慶賀に値することである。小林社長のように、企業とは何か、メーカーとは何か、何のために、誰のために存在しているのかを真剣に考えれば、当然の帰結ではないだろうか。アナリストに言われたからと言って、その主張に唯々諾々と従った経営者は、自ら考えなかったことを深く恥じるべきであろう。

 製造業に小林社長のような経営者が更に出てくることを期待しつつ、本日は希望を持って帰ることが出来た。(文責 相馬和彦)

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