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IHIの航空宇宙事業:航空産業が直面している変化、今後の動向 – 石戸 利典氏

と   き : 2010年12月07日

訪 問 先 :IHI空の未来館(東京都昭島市)、瑞穂工場(東京都西多摩郡)
 
講   師 :(株)IHI常務執行役員 航空宇宙事業本部本部長 石戸 利典氏
コーディネーター:(独)国立科学博物館 理工学部科学技術史グループ長  鈴木 一義氏


  異業種・独自企業研究会の2010年度後期 第3回例会は、平成22年12月7日、東京都昭島市にあるIHI 空の未来館、東京都西多摩郡の同社航空エンジンの主力生産拠点である瑞穂工場を訪問・見学し、(株)IHI 常務執行役員 航空宇宙事業本部長 石戸利典氏より「IHI のジェットエンジン事業:今日に至る軌跡と今後のヴィジョン」と題してご講演いただいた。

 今年は日本の航空史100年。IHI はわが国初のターボ・ジェットエンジン「ネ20」を生んだわが国航空エンジンのパイオニアで、今日、わが国ジェットエンジンの60~70%のシェアを持つ。又、IHI はわが国の宇宙開発にも当初から参画し、2000年、日産自動車の防衛宇宙部門を吸収し、今日では固体燃料を用いるロケット本体に加えて、エンジンの心臓部、技術的にも最困難といわれる液体酸素、液体水素用ターボポンプはここ瑞穂工場で生産されおり、IHI は宇宙ステーション建設で日本初の有人施設・宇宙実験棟「きぼう」の船外プラットフォームなどの開発・生産を分担している。IHI の航空宇宙部門の売上は、今日全体の22.6% を占めている。

 航空機エンジンの特質は
 ① 高付加価値産業、かつ研究開発集約型産業であること。
 ② 一つのエンジンは30万点という部品で構成され、それらは他産業に広く応用、活用される
  高度技術であること。即ち、裾野が広く活用される先端高度技術あること。
  例えば、現在大きな市場となっている産業用ガスタービンは、60〜70 年代に航空エンジン
  で開発された先端技術が産業技術として応用された例。

 今年2010年6月13日、7年60億kmの旅を終えて帰還した‘はやぶさ’を打ち上げたM 5 ロケットと帰還カプセルの設計、製造はIHI によるものであった。
 又、この固体燃料を用いるロケットは、小型の衛星、科学衛星の打ち上げに非常に適しており、併せて、宇宙衛星の小さな推進系・スラスターも、今輸出の可能性が大きく見えてきて、今後の日本の新たな輸出事業としても大きな発展が期待されている。
 なお、今年、‘はやぶさ’ を打ち上げたM5の後継固体燃料ロケットとして ‘イプシロン’ の開発がスタートし、平成25年に打ち上げの予定であるという。

 今回は、このような観点から、IHI の航空宇宙事業を通して、今後の日本の新たな希望と可能性を探る機会とさせていただこうとしたものである。

 

 当日は、東京都昭島市のIHI 昭島事業所に集合し、先ず同社の「空の未来館」を見学させていただいた。

 IHI が開発したわが国初のターボ・ジェットエンジン「ネ20」は、残念ながら、今、東京上野の国立科学博物館で開催中の「空と宇宙展」に貸出し展示中で見られなかったが、資料館長 宮本謙三様の名ご解説を得て、わが国における航空宇宙の歴史を歴代のジェットエンジンの実物展示を通して、目の当たりにさせていただいた。その後、瑞穂工場へバスで移動し、瑞穂工場におけるジェットエンジンの組立て、整備状況を具に拝見させていただいた。

 見学後にご講演いただいたIHI 常務執行役員 航空宇宙事業本部長 石戸利典氏に依ると、IHI は
防衛省が使用する航空機の殆どのエンジンの主契約者で、その生産を担っているという。
又、大型から小型まで、各種民間機用エンジンの国際共同開発

事業にも参画し、エンジンモジュールや部品を開発、供給し、
今、環境にやさしいエンジンの必要性と環境に対する企業責任が高まる中、種々の最先端技術を活かした次世代エンジンの研究開発を進めている。そして、これらエンジンの開発、製造技術を活かして各種エンジンの整備にも取り組み、アジアにおける航空エンジンのメンテナンス・センターとしても、
今日高い評価を得ている。

 IHI における航空宇宙部門全体で占める売上高ではジェットエンジンが大部分を占め、宇宙関係も若干入る。
 事業部門としては防衛・民間関係、この瑞穂を起点とする整備事業、そして宇宙開発事業、技術開発センターと生産センターがあり、この生産センターの下に4つの生産工場がある。 

 IHI は、平成12年、日産自動車の防衛宇宙部門を吸収し、現在キャスティング、マスターメタルなど素材関係の会社も保有して、防衛庁の戦

闘機、練習機、対潜哨戒機、ヘリコプター等のエンジンは殆ど全てライセンス生産している。又、民間機については国際共同開発に積極的に参加している。

 ところで、IHI の航空宇宙関係の生産工場は4つある。
 今回見学させていただいた瑞穂工場ではエンジンの組み立てと最終試験、又、様々な研究開発用の設備も持っている。又、管理業務、エンジニアリング部隊は昭島に、部品生産部門を相馬に移しており、今、福島県の相馬工場がIHI の航空宇宙関連の‘ものづくり’の中心になっていて、相馬はここ数年、毎年1つ建家をつくるという勢いで増産に対応しているという。

 呉工場は戦艦大和を建造した呉の旧海軍工廠の一角にあり、30年前、航空エンジンの大型部品を造る工場として立ち上げた。今も元気にやっている。

 航空機の心臓部はエンジンで、エンジンというのは推力だけでなく、航空機の中で使われる全てのパワー、例えば機体やエンジンの様々な制御や駆動、加圧空気を機内に送り込んだり、航空機に使われている全ての電源はこのエンジンでまかなわれている。

 因みに、軍用エンジンと民間用エンジンの差はどこにあるのかというと、先ず軍用エンジンは毎秒1000メートルという高速でジェットを吹き出して、超音速の飛行を実現する構造になっている。一方で民間機用のエンジンは、大きなファンと称する空気の圧縮構造を持っていて、毎秒300メートル程のジェットを吹き出して、高効率の飛行を実現する構造になっているそうである。

 日本の航空産業は、戦後7年間、全ての活動を禁止された。しかし、先輩たちはその空白の時期を乗り越えて、禁止令が解かれるや直ぐに60年代から、先ずは 練習機用エンジン、そして航空機の研究開発、生産を始め出したのだということである。そして、戦後間もなく始まった国産エンジンと航空機は、研究を含め、IHI が委託されて来たケースが多い。

 航空機エンジンというのは、大体15年に1回位ずつ新しいエンジンに切り替わってきているのだそうである。

 日本も、今、技術実証用の戦闘機用XF5エンジンの試作を始めており、機体の方も、今、三菱重工が技術実証用であるがつくろうとしている。2011年〜2012年辺りに飛ばす予定との話だった。又、現在、日本の海で防衛上非常に重要になっている対潜哨戒機は川崎重工が主担当で取り組んでいるが、このエンジンを純国産でIHI が主担当で開発中だ。ゆくゆくは、世界最先端の戦闘機用エンジンも日本でやろうと、今、色々な研究会を立ち上げているところだということであった。

 世界全体を見ると、航空エンジン分野のシェアはアメリカのGEとUTCのプラット アンド ホイットニーの2社と英国のロールスロイス、このビッグ3が大きなシェアを占め、次にIHI の名前が出て来る。航空分野の年間売上は全体で7兆円程だというが、その3兆円位は防衛関連。民間だけでいうとIHI のシェアはもう少し上って来るそうである。しかし、出来れば、数年の内に民間航空機分野で全体の約10%のシェアをIHI で持てるように努力しているということであった。

 ところで、事業の特質で、とくに技術面でいうと空を飛ぶということから安全性確保への極めて高い信頼性が求められる。地上と上空では温度も相当違い、エンジン内の高温など、広い範囲をカバーしなければならない。ジェットエンジンの技術は、高温、高圧、高精度がキーワードといわれている。これをきちっとコントロールする、或いはこれらに耐えられる高度技術が必要になる。
 従って、ここでは開発リスク、事業リスクが大変大きく、開発費も莫大となり、中型機、大型機を問わず、今1つの新しいエンジンを開発しようとすると1000億円以上掛かる。従って、ジェットエンジン事業というのは、そのような莫大な開発費を完全に回収し切る、エンジンでいうと開発に5年掛けてその後量産に入り、色々補用品を買ってもらって利益を出す、投資を回収するには20年掛かるという、壮大な事業である。
 逆に見るとこれは参入障壁であるといえなくもない。従って、世界で航空エンジンを実質的にやっているのはアメリカとイギリスとドイツとカナダ、それと日本だけである。韓国、中国もやれていない。巨大な開発費と長期にわたる開発期間を要するので、エンジン事業というのは相当な覚悟がないと始められない事業である。

 世界との技術比較では、モジュールなり個々の部位ではIHI は既に世界レベルにあるが、全体を纏めるということではまだ一歩ということであった。又、防衛用エンジンでは、唯一、戦闘機用のアフターバーナー、後ろで燃料を再度吹き込んで再燃焼させ、秒速1000メートル以上で吹き出すという所のエンジンを、まだ量産で防衛庁に収められていないというところが、もう一歩世界に遅れを取っているところであるという。
 個々を支える技術、例えば空気力学的な技術、材料技術、騒音・環境技術、これらの技術はここ10〜20年で非常に進歩してきているという。空気力学的な技術開発のとこの非定常3次元解析では日本は世界一のレベルで、この領域では日本は世界をリードしている。材料や環境技術においても相当独自の良い技術を生み出して来ている。

 それから航空機全般についての技術トレンドについていうと、燃料消費率、いわゆる燃費が、この40〜50年間で1/3になったという。この半分以上はエンジンの進歩によって達成出来たものだというが、エンジンの燃焼効率は既に理論限界に近づいているという。
 又、効率化ばかりでなく、軽量化。航空機は軽くすると燃費が良くなる。従って、航空機に取って軽量化は大変重要な技術的課題であり、更なる軽量化に努力している。
 更に、最近航空機のジェットエンジンの音が静かになってきた。そして、信頼性は航空エンジンの命であるが、これまで1000時間の飛行で双発飛行機のエンジンの片側が何かの理由で停止する率は0.1とか0.2という時代が長かったが、最近は1000時間で0.01というようなオーダーになっている。これは、100万時間飛んで1回片側が止まるかどうか、という信頼性である。

 この信頼性設計技術が航空機産業で最も進んでいる領域である。又、高圧化するとNoxを下げるのが難しくなるが、その中で色々工夫をしてNoxを下げてきている。

 前に航空機エンジンの開発費は約1000億円掛かると紹介したが、これを1社或いは1国で持つのはとても不可能で、リスクも大きいので、今では国際的な共同開発が今日の航空機業界でのコンセンサスになっている。
 こういう共同体制を組むと、5ヶ国もあると意思決定が遅くなったり、色々問題も出て来る。そこで、航空機業界では、リスク アンド レベニュー シェアリングパートナーという制度を持ち、例えば親がGEなりプラット アンド ホイットニーだとすると、その下にシェア20% なりで入って、実質的に開発なり設計なりはIHI であればIHI が全部リスクを背負ってやるけれども、最終的な顧客への売り込みとかはこの親会社がやる。このような仕組みが、ここ20年位多く使われてきているという。勿論、それ以外に単純にサプライヤー契約で‘ものづくり’だけをやる、例えばIHI でいうと、呉工場は2〜3メートルという長い、非常に高精度のシャフトをつくっているが、世界中の企業からこのシャフトをつくって欲しいといわれている。このような場合には、割り切って‘ものづくり’で参加する。リスクの取り方、リターンの得方など、それを色々組み合わせてやって行くのが、今の航空業界における経営の時代の要請になっている。

 航空産業には今大きな変化が押し寄せている。IHI が前側を担当し、瑞穂工場で今最も多く整備を手掛けているV2500エンジンに今後継エンジンの話が出始めており、これまでチタン材が主だったケースなどの材料をFRPに、羽も出来れば複合材にというようにで、20〜30年の時代を経て、いよいよ材料が全て変わるかも知れない時代に入って来た。
 又、これまでの航空ネットワークはハブ アンド スポークスといって、主要な大都市から地方都市へスポークのように飛ばせるというやり方が普通だったが、今後はポイント トゥ ポイントといって、中小の都市間をダイレクトに飛ぶという方向に大きく変わろうとしている。その場合は余り大きな飛行機はいらない。今後の旅客機は70〜90席が中心になるといわれ、これが1990年代の半ばから世界中で伸び始め、そこにIHI のCF 34というエンジン、これはGEとやってIHI が30%のシェアを持っているエンジンだが、この売れ行きは非常に良い。三菱のMR Jは正にこの市場に挑戦している航空機なのである。

 航空機産業の今後の動向と取り組みであるが、石戸航空宇宙事業本部長はとくに民間用エンジン産業で起きつつある変革として、カストマーオリエンテッドの方向を強く指摘した。今後、エアラインと一緒に色々仕事をして行くことが増えて行く。
 例えば、エンジンの開発段階からJAL やANA に見てもらうとか、或いは注文をつけてもらうとかいうことは既に自然に行われるようになっている。
 当然ながら、エアラインに取ってのライフサイクルがどうなるかも最初から計画が出来るようにして、それをどう実現するかということで色々なエンジンの設計、整備計画、そのようなものを最初からつくり込むということをやっている。
 又、ライフサイクルビジネスとして、輸出入銀行とか色々な銀行とタイアップしてファイナンスの一端も担うということも考えなければならない時代になっている。それから、これまではエアライン側でやっていたエンジンの整備とか、オンウィングの整備とかについても指導なり色々アドバイスを欲しいというレベルのサポートも増えている。又、高空機産業にとっては補用品やリペアは収益の柱でもあるので、その辺りもしっかりと理解してもらうことが大切になって来る。

 これらを実現して行くためには、これまでのエンジンメーカー、機体メーカー、機器メーカーの間の垣根を越えながら一緒にやるという動きがどんどん出て来ている。

 そして、これだけのことをやろうとすると、産・官・学のしっかりした共同体制が国の中でも国を超えてもやって行く必要出て来ている。ヨーロッパではとくにオープンに、EU の資金を出し、国を超えて声を掛けている。今、正にそういう時代になりつつある。

 今、IHI の民間エンジン事業は受注残が3年以上ある。幸いにも良い機種、良いポートフォリオで仕事を進めているところであるという。この不況を乗り越え、受注も復活して来た。今IHI は持っている受注機種で先の成長を見込める状況になっている。その結果、相馬工場の生産は今拡大しつつあり、新しい機種787用のGNXエンジンも動き出している。又、今日のIHI 大型小型、機種別も含めてポートフォリオを非常に広く持っており、しかも安定している。又しかも国際的な次世代プログラムにも必ず声が掛かり、それにも積極的に参加している。そのための様々な先端技術開発にも地道に、懸命に取り組んでおり、どの業界でもそうであるが、航空業界ではとくに重要なアフターマーケットビジネスを、お客様とライフサイクルできちっと関係をつなぎながら力を入れている。

 宇宙分野においても輸出を睨み、その技術をコアに輸出出来る製品、事業をつくり上げて行こうとしているIHI の航空宇宙事業に学ぶべきものは、今日の私たちにとって極めて大きいと実感し、あわせて今後の日本に非常に明るい未来を垣間見た次第である。(文責 松尾隆)

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