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金沢工業大学の大学革新 -社会から必要とされる大学であるために-

 2010年度前期の第二回は、平成22年11月2日に、石川県金沢市にある金沢工業大学のキャンパスを訪問した。金沢工業大学は、教育分野の全国大学ランキングで5年連続1位を維持しており、また就職内定率も高い(2009年実績、99.5%)ことで知られている。大学生の質の低下が言われて久しいが、どのような方針で教育の質を高めて来たかは、採用する企業の立場から大いに関心があり、また社員教育という観点からも期待を持って訪問した。

最初に大学紹介ビデオによる概略説明があり、次いで石川憲一学長による「金沢工業大学の大学革新」~社会から必要とされる大学であるために~ と題した講演がなされた。講演を通じて、大学における教育理念と目標、その具体的実行策が実に明確に決められ、かつ実行されていることが印象的であった。まず大学のミッションには、「人間形成」、「技術革新」、「産学協同」の三つ、教育目標には、「自ら考え行動する技術者の育成」を置いている。目標の達成のためには、学生には「知識から行動に」、教員には「教員が教える教育」から「学生が自ら学ぶ教育」へ、職員には「顧客満足度の向上」というそれぞれの立場に応じた目標を課している。つまり、大学の構成員たる「教職員と学生が共に学ぶ教育へ」と改革することが目標となっており、礼記に言う「教学半」がその根本思想となっている。教員や職員にまで具体的な目標を課し、顧客=学生と言い切っている大学は、国内では他に類を見ない。

学生数は2010年5月1日時点で7,265人(学部6,675人、大学院590人)、教員330人である。学生の出身地は石川県が約30%、北陸地区が45%なので、それ以外からが半数強となっている。専門教員の半数が企業経験者であり、原則として非常勤講師で教育は行わないため、企業では当たり前の方針が大学でもあまり抵抗なく徹底出来ている。

金沢工業大学における教育改革の目標は、教育付加価値で日本一となることである。つまり、入学時能力に対する卒業時能力の極大化にある。そのための方向性は、第一が学習意欲の触発と増進であり、これが出来れば目標の半分は達成したことになるので、大学としては最重要課題として様々な方策を立案・実行している。

技術革新では、オープン・リサーチ・センターと研究所を活用し、企業との共同研究テーマを通じた産学協同を目指している。産学連携のプラットフォームとして、「夢考房」を有し、学生中心で運営させながら、研究所の成果を産業へ応用するための共創を目指している。ハイテク夢考房では7プロジェクトを設定し、学生や大学院生へ参加募集している。4例については、現在企業パートナーを募集中である。1~3年生を対象とした人材育成プログラムとして、企業でのインターンシップ・プロジェクトがある。連携企業から提案された課題に対して、学生から提案がなされ、学内検討で選ばれた学生提案を企業でのインターンシップでトライし、その結果を発表する仕組みであり、産業界への技術貢献と「自ら考え行動する技術者の育成」に役立っている。4年生で大学院進学予定者に対しては、KIT Cooperative Educationで更に問題解決への具体的取り組み方を学ばせる。これまでの大学との連携実績から選んだ連携企業で、問題発見解決プロセスを有する業務に対し、3ヶ月から6ヶ月の業務を実践し、結果を連携企業の参加の下で発表する。これが修士研究テーマに発展して行く。更に大学院生を対象としたモジュール統合教育プログラムがある。これには複数の教員と企業が関与し、個々の教員だけによる寺子屋教育を避け、講義・演習・実験・発表という4つの能力育成を目指している。このプログラムを通じて、企業が抱える課題を、学生と共に授業の中で取り組むことが出来る。

講演の締めくくりとして、これからの技術者は、単なる技術のみではなく、「夢と心と技」を有する総合的な人間力が必要となる。そういう技術者を育てることが金沢工業大学の目標であり、そのことを通じて「社会から信頼され必要とされる大学」であり続けたいとの強い決意が石川学長からなされた。

次に2グループに分かれて学内見学に移った。見学の途中で自習中または歩いている学生を多く見かけたが、自習中の学生は勉強に集中しており、出会った学生は見学者に対してもキチンと挨拶が出来た。大学としては本来当たり前と思われることであるが、実際の大学見学としては珍しい体験であった。こういう体験をすること自体が、日本の大学が抱えている深刻な問題を反映している。

  ①学内テレビ

学内の要所にテレビが設置されていて、授業の変更を含めた学生への連絡に使用されているが、寮生へ郵便物が届いた際には、学内郵便局に取りに来るような授業以外の連絡もなされている。

②食堂

夜10時までは自習室として使用が可能。食卓の下にパソコン用の端末があり、大学のイントラが使用可能となっている。

③講義棟

備え付けのエスカレーターは、内部の仕組みが分かるよう機構部分が透明になっている。筆者自身も、エスカレーターの内部メカニズム細部は今回初めて観察した。これも学生にメカニズムに関心を持たせるための教育の一環。

④夢考房

2棟あり、無災害日数が表示されている。企業文化教育の一環。ここでの工作中のケガは5~10件/年あり、ヒヤリハット件数を年間で150件集めることを目標にしている。

ランプなどの工作方法と実物が展示されていて、学生が休み中に自主的に工作出来るようになっている。パソコン、加工技術など個別技術毎に技能者のスキルリストが作られており、希望する学生はその技能者から個人的に教えて貰える。教えた技能者には、大学から教授料として880円/時間が支払われる仕組み。

様々な工作機械が夢考房には置かれており、学生が自由に使える。ボール盤には注意事項が盤毎に設置されており、危険度に応じて大、中、小に分類されている。シャーリングには、危険度を体で意識させるため、安全装置は付いていない。フライス盤や旋盤は、工作後の後始末を重視しており、後始末に30分は掛けさせる。木材加工コーナーもあり、一般的な工作機械以外にも匠の技を必要とする工作機械も備えられている。

工作に必要な工具、部品等1,500点は部品置き場に分類・備蓄されており、代金を箱に入れて使用する。在庫が減ると、係の学生が補充する。自転車部品が一番売れるとのことであるが、年間の売上は250万円になるとのこと。木材、金属などの材料は材料置き場に整理されている。自分で工作機械を操作してものづくりが出来る環境が良く整備されている。

⑤プロジェクト棟

入り口には、ダビンチ考案の機械が具現化されて展示されていた。また書棚には、過去のプロジェクト最終報告書がすべて閲覧可能な状態に保存されていて、発表を予定している学生の参考にされている。自習室は365日、24時間オープンで、プロジェクト毎にメンバーが打合せを行っている。

⑥図書館

図書館は365日オープンで、教員が常駐しており、学生に質問があればそれに答える体制を取っている。奥に稀覯本を集めたライブラリーがあり、工学に関する初版本が集められている。通常はガラス棚の中に飾るのではなく、実際に触って見ることが出来るとのことであったが、当日は時間も限られており、残念ながら見学だけであった。ユークリッドの「幾何学原論」(1482年)、ニュートンの「プリンキピア」(1687年)、ラボアジェの「化学要論」(1789年)、ファラディ-の「電気の実験的研究」(1839年)、ダーウィンの「種の起源」(1859年)、アインシュタインの「一般相対性理論の基礎」(1916年)など技術者ならば誰でも知っている歴史的発見の初版本を目の当たりに見ることが出来た。ポピュラーミュージックコレクションには、14万枚のLPが保存されており、誰でも聴くことが出来る。

⑦数理工教育研究センター

ここもユニークな仕組み。教員32名が全員大部屋におり、質問のある学生に対して教員が個別に答える。ここで、学生が質問しにくい先生は何故そうなのかが分かったため、教員側での意識改革が促された。「こんなことが分からないのか」は禁句。

今回見学した施設は、いずれも学生が使いやすいように、あるいは自分でやりたいときにはいつでも使えるようにとの細かい配慮がなされていた。学生=顧客という理念が、単なる理念に止まるのではなく、教員や職員に多大な負担が掛かっても、具体的に実践されていることが印象的であった。

見学終了後、夢考房の名付け親である泉屋吉郎常務理事・法人本部長より講演がなされた。

本学は昭和32年6月1日に、現場技術者の養成を目的とした北陸電波学校として設立された。昭和40年に金沢工業大学を開学するに当たり、設立以来の現場技術者の養成という理念を反映させ、産学協同を建学綱領とし、産業界から教員を招くことにした。昭和51年に学生の募集を全国拡大したのが、それまでの建学理念を見直す契機となった。

第二代学長の京藤先生は、教育付加価値日本一を掲げ、徹底した補修教育と褒める教育で、入学時のレベルは低くとも、卒業時のレベルを極大化することに取り組んだ。その後の歴代の学長も、時代に合わせた教育改革を実施してきた。

現在は一年間に300日の学生支援を行っているため、教員プラスアルバイトで対応している。また自習室は24時間無休で運営している。

経営は学園協議会の15名、学友会(学生代表)5名で構成されている。

夢考房は、教育と研究は別物ではないとの考えに基づき、平成5年に設立した。ここで行うプロジェクトは学生主体で、教員は指導していない。ロボットコンテスト参加はその活動の一つで、2010年は日本一に輝いた。

今行っているのは、CS(カスタマー・サービス)からUR(ユーザー・リレーション)への発展である。ここでユーザーとは企業、学生、地域を含んでいる。

二つの講演および見学が終了したので、参加者との質疑応答の時間を持った。以下に要旨のみ纏めた。

①個々の技術や製品で優れているにも拘わらず、市場シェア-や利益率で低迷する日本企業が多い。その理由の一つは、個々の製品で優れていても、その製品の使用システムや社会に於ける位置づけで海外企業に後れを取っていることがある。その原因は、技術者自身が技術にのみ関心を払い、人間や社会・文化に対する視点を欠いているためではないか。大学教育として、この種の欠陥に何か対策は持っているか?

→ a. 全学生の必修課目として、技術者入門があり、「技術者になると言うこと」が教科書となっている。また、社会に対する関心を持たせるため、新聞の読み方を課題として設定し、10テーマの報告書提出が義務づけられている。b. 2年生の必須課目に日本学があり、日本の代表的人物のケーススタディや、国歌、国旗の意味を学んでいる。c. 3年生では技術者倫理を学ぶようカリキュラムが組まれている。

②生徒が自ら考え行動するまでになるのは、苦労を嫌う今の若者ではそう簡単なことではない。具体的にはどうやっているのか? 大学はどう指導しているのか?

→ 学長は年間に4回は学内で講演し、教員にも基準を守るよう常に要請を行っている。担当教員がメインテーマを出すと、誘導されて生徒がその関連テーマを提出し易くなる。 

  • 夢考房はどういう発想で作ったのか?

→ MITでの工房を見て感動したのがきっかけである。一年生が自分で何か作りたいと思った時に、それが作れる場を提供したかった。ドラえもんのポケットのようなものだ。

 今回の訪問で、大学の理念を聴き、施設を見学し、世の中で言われている金沢工業大学の素晴らしさが納得出来た。少子化時代を迎え、個々の大学の存在意義が強く問われ、学生および企業の大学選択の目は一層厳しくなりつつある。その中で、金沢工業大学は「自ら考え行動する技術者の育成」を目標とし、そのために必要な改革を実行してきた。そもそもの建学目的が、現場技術者の養成にあったとは言え、学生のみならず教員や職員まで巻き込んだ大学改革は一朝一夕に達成出来たものではなく、長年に渡る試行錯誤と努力の結果であることに敬服した。時代の変化に応じた人材供給のため、今後も変革を続けていくことを大学が方針としているので、これからも教育面でのランキングではトップの位置を維持していくことが期待される。

ニーズが多様化し、技術が高度化、複合化する中で、企業が単なる部品や技術のみでグローバルな主導権を取ることはとうてい不可能となった。技術・製品を深化させるだけでなく、その技術・製品を使う人間や社会が、その技術の意味や価値を極大化出来るためのトータルシステムを提案することが技術者に求められている。そのためには、技術のみでなく、人間、社会、文化に対する視点を有することが技術者にとっても必須の要件となっている。何よりも「自ら考え行動する技術者」が求められていることを再認識したが、今回の訪問でそれを目標に人材育成を行っている大学があることを知り、大変励まされた。(文責 相馬和彦)

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