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伝統と革新(ヤマハ)

と   き : 2009年9月25日
訪 問 先 : ヤマハ(株) 管楽器工場
講   師 : 取締役 常務執行役員 岡部比呂男 氏
                東京工業大学連携教授 清水 寧 氏
コーディィネーター:相馬和彦氏 (元帝人(株)取締役 研究部門長)

 2009年度後期の第1回例会は、平成21年9月25日にヤマハ株式会社の豊岡工場を訪問した。ヤマハでは、以前にピアノ製造に懸けるグローバルな夢の話と、ピアノ製造工場見学後にプロのピアノ演奏をお聞きして感動した覚えがあるが、今回は管楽器というデリケートな楽器製造に懸ける夢と想いを伺えることになり、期待を持って訪問した。
最初に、今回の訪問が実現するまでに多大の貢献を頂いた加藤博万顧問よりご挨拶があった。今回の訪問で伝えたいことが二つある。第一は、美しい音とはどういうことかの理解である。音は楽器とその使われ方が組み合わさって実現するものであり、そのためには何をするかがポイントとなる。ヤマハで実行しているその努力を見て欲しい。第二は、音とは総合ビジネスであり、総合技術である。そのためには常に新しい技術を導入し、音を活性化する必要がある。建築音響技術もその一つであり、それを知って欲しい。

次に「ヤマハの建築音響技術とその広がり」と題し、清水寧サウンドテクノロジーセンター技術担当主幹技師より、音の響く空間設計技術へのヤマハの取り組みについての講演がなされた。楽器の音は空間に伝わり、それが聴こえる音として耳に伝わる。その聴こえた音を楽器にフィードバックし、更に良い楽器を開発するというプロセスを取る。楽器の音は、音の大きさ、音色、ピッチから成るが、片耳と両耳では大きな差があり、空間で聴こえる音は、評価や定量化が困難である。そのために、経験に科学的アプローチを加味して技術をつくり、それでソルーションを目指している。ウィーンフィルのコンサートホールは音響の良いホールの見本となっているが、形の異なる別のホールでも良い音になるのではないかという試みを行っている。例えば、体育館ではどうかとか、5000席でのクラシックコンサートではどうかとか、野外では可能かということまで含めた広い可能性を追求している。
   音の設計は、第一が建築音響設計であり、響きをつくるための静けさを設計する。第二が電気音響設計で、使える設備、響きの最適化を設計する。これらを駆使し、ホール完成前であっても、そのホールが完成した時点での可視化、可聴化が可能になる技術の完成を目指している。そのために、sound field synthesisやシミュレーション、1/10スケールの模型実験を行っている。可聴化実験室で完成後のホールの音を聴くことが出来るようになったため、その結果をホールの設計に反映することが可能となった。
電気音響的支援事業では、新築ではない既存の建物での音響の改善を行っている。例えば、cinema DSPとか防音室への商品化、音響制御システムなどが含まれる。
   これらの技術を活用した将来の方向としては、空間のデザインや会話によるコミュニケーション改善などを検討している。サウンドをマスキングするパネルを使った会話し易い会議スペースとか、間接音響技術によって音による包まれ感、空間感、音の移動感のある空間などの設計である。
 次に本日のメインとして、取締役 常務執行役員 楽器事業統括の岡部比呂男氏より、「管楽器づくりにかける思い」と題した講演をいただいた。ヤマハの歴史は、1887年のオルガン製造に端を発し、1897年には日本楽器製造が設立された。1987年には社名をヤマハと変更し、名実ともにグローバル企業になった。
 国内のピアノ保有は600万台に達し、年間の売上はかっての30万台/年が現在では2万台/年に減少している。エレクトーンの売上は増えているので、ピアノ人口そのものは減っていないと思われる。
 ヤマハの売上は2009年3月期で4593億円、利益は120億円あり、楽器分野ではダントツの1位を占めている。この分野は、日本メーカー(ヤマハ、ローランド、カワイ)が1位から3位を占めており、日本企業の独占となっている。
世界の年間の管楽器製造数は約150万本で、そのうちヤマハが41万本を製造している。生産地別の生産量は、中国9万本、インドネシア17万本、日本16万本となっている。
ブランドイメージとしては、中級品中心から高級品を拡大しようとしている。アーティストの要求を満足させるような高品質の商品をまず開発し、それによってブランド力をアップさせると、その次に一般ユーザーへ展開するのに有利と考えて取り組んでいる(後刻の工場見学の際、プロのアーティストが実際に吹いてみて品質的に合格したものを、そのアーティストの推薦品として選別する工程を見学した)。
高品質の製品を開発するため、工房(アトリエ)を米国に2ヶ所、欧州に2ヶ所、日本に1ヶ所設置している。アーティストを多数入れると、開発されて楽器が無性格となって結果的に売れないが、少数で開発すると個性的な楽器が開発出来、結果的に売れることが分かっている。
ウィーンフィルの管楽器はウィーン式といって特別な構造をしており、オーボエ、ホルン、トランペット、トロンボーン、クラリネットがあり、これらも製造している。ウィーン式管楽器は、音質の点から弦楽器とのバランスが良いと言われている。

自分だけで楽しみ、周囲に迷惑をかけない楽器としてサイレント楽器を開発した。サイレントピアノや、ブラスを減音するミュートを開発し(実演デモあり)、この技術をドラムや弦楽器に展開している。
生産はグローバル3ヶ国で行われ、生産拠点は日本に5ヶ所、中国に3ヶ所、インドネシアに4ヶ所設けている。欧州の楽器メーカーは、中国からOEMで楽器を調達し、ヤマハに対抗して総合メーカー化しようとしている。これに対してヤマハは、高品質主義を貫き、基幹部品は自社生産していく方針である。今後インドネシア、中国拠点での生産レベルが向上していくので、国内での生産は更にレベルアップが必要であり、国内の成果を次に海外へ展開していくつもりである。
今後はプレミアムブランドをグローバルで獲得するとともに、画期的な材料や製法の開発に注力したい。特に貴重な天然資材・木材の代替素材や更には脱天然素材の開発に努めていくつもりである。また、新しい管楽器の開発・研究も実施していく。
最後に管楽器の製造工場を見学した。筆者の属したグループによる工程見学順に見学内容の概要を述べる。豊岡工場では、木管楽器であるピッコロ、フルート、クラリネット、ファゴット、サキソフォン、金管楽器のトランペット、トロンボーンなど年間11万本程度を製造している。中級から上級クラスの楽器は、工房での製造となる。
①トランペットの朝顔管製造 銅またはブラスの板を手で叩いて管に成形。高級品向け。
②トロンボーンの朝顔管製造 ベル絞り、機械絞りによる普及型の管。
③空気管製造 総体絞りで作る。
④管のみがき工程
⑤ピストンの銀蝋付け 精度が重要なため、技術習得には数ヶ月は必要。
⑥サキソフォンの朝顔管彫金 彫金刀をゆらしながら、下絵なしに彫金する。
⑦サキソフォン朝顔管の半田付け 世界で唯一の鉛フリーの半田使用。
⑧ピストン加工
⑨水圧成形加工 パイプを綺麗に曲げる工法で、以前は鉛を使用していた。今は水を凍らせてから成形し、成形後に氷を解かす。
⑩検査工程
⑪研磨工程 バフで磨く。徹底的に製品を磨き上げる。ハードだが工場では人気のある職場。出来上がった製品へのプライドを示せるため。
⑫最終チェック、出荷工程 社内吹奏楽団所属のメンバーが、試奏して音の出具合をチェックする。如何にも高品質の楽器をチェックしているという雰囲気が伝わってくる。
⑬塗装工程
⑭トロンボーンのスライド部分調整工程
⑮フルートの音孔加工工程
⑯サックスの最終組み立て 管体にキーを取り付ける。
⑰リコーダーの管体成型 樹脂の射出成形による一般品用。
⑱フルート、オーボエ、ピッコロの最終組み立て 息が漏れないように細かい調整必要。
⑲カスタム工房 流れ作業ではなく、一人が長い工程を担当する手作り工房。
⑳バイオリン工房 2000年から設置。イタリア方式にプラスアルファしている。
㉑ ギター工房 フォークギター製造。

以上でも分かるように、工場内に手作業の工程が多い。これは少量多品種の楽器が多く、機械化・自動化するには生産量が少なすぎるためであり、このあたりが管楽器の海外生産移行要因の一つとなっているのであろうし、管楽器製造の難しい点であると推測された。
工場見学から戻ってから、質疑応答が行われた。音と空間の関係に関連して、昔から近くで聴くと音の悪いバイオリンはホールで聴くと良い音に聴こえると言われているが、建築音響技術から言っても事実かという質問があった。これに対し、楽器は近くで聴くと雑音だらけであるが、ホールで聴くと良い音になるのは事実である。何故と言われると、不明の点が多く、明確な答えは出来ないが、ヤマハの開発した可視化システムでは、近接雑音は除去しているとのことであった。また、世界では気候が異なる国や地方も多く、特に多湿の場所では音に影響を与えるのではとの質問には、湿度は音波速度に影響するので、湿度は音に多大の影響を与えるため、ホールの設計そのものにもその地方の湿度は反映されているとのことであった。事実演奏家は湿度を嫌う。
 今回は前回のピアノ製造工程見学に続き、管楽器という感性に訴える芸術的な製品の製造現場を見学出来、楽器の繊細さとそれを技術として極限まで追求する姿勢に感銘を受けた。
また、製造現場に働く人達が、単に製品を作っているというのではなく、自分自身も楽器を演奏し、その好きな楽器を作っているという気持ちが製造現場に溢れていることが強く感じられた。事実楽器が好きな連中が集まってくるとのことであり、単なる工場を超えたものづくりであることに羨ましさを感じた一日であった。

(文責 相馬和彦)

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