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先端科学技術と伝統文化の融合を目指して

と   き : 2009年2月23日
訪 問 先 : 国立大学法人 京都工芸繊維大学 伝統みらい研究センター
講   師 : 教授 伝統未来研究センター長 濱田泰以 氏  
コーディネーター: 相馬和彦氏 (元帝人(株)取締役 研究部門長)
 

 2008年度前期「異業種・独自企業研究会」最終回は、平成21年2月23日に京都工業繊維大学の「伝統みらい研究センター」を訪問した。京都は日本の伝統文化の中心として、それを支える伝統技術や伝統工芸を激動の歴史の中で維持・発展させてきたことで知られている。単に伝統を維持するだけでなく、それを更に発展させ、京セラ、村田製作所、島津製作所などに代表されるようなエレクトロニクス部材やエレクトロニクス機器などの近代製品や産業を産み出して来たことでも特異の位置づけにある。そのような歴史的な発展を可能にした環境として、大学の役割と貢献が大きかったことは容易に想像される。特に清水焼や西陣織に代表される伝統的な産業においては、京都工業繊維大学は極めて大きな影響力を及ぼして来た。
 本日訪問した「伝統みらい研究センター」は、そのような大学の役割を更に明確にし、伝統技術・伝統工芸の「暗黙知」を「形式知」に転換することを目的に設立された。時代の転換期を迎え、技術の伝承と時代による市場変化をどのように調和させていくかが産業界に求められている今日、伝統みらい研究センターでそのための大きな示唆が得られることを期待して訪問した。

   最初に、伝統みらい研究センター長の濱田泰以京都繊維大学大学院教授による「先端科学技術と伝統文化の融合」についての講演をお聴きした。
京都工業繊維大学の組織には、教育研究プロジェクトセンターがおかれ、その中に四つの研究センターが設置されている。本年で発足4年目を迎えるが、研究センターの対象とする分野は、「伝統みらい研究センター」、「バイオマテリアル研究センター」、「ブランドデザイン教育研究センター」、「昆虫バイオメディカル研究センター」と極めて多岐に渡っている。
京都工業繊維大学は、清水焼に代表されるセラミック、西陣織に代表される繊維を基本分野として戦後発足した大学であるから、そもそも伝統技術との関係は深い。
また学部組織運営上の利点として、「生命物質科学域」といった分野をまたがる「域」を設定し、その下に各学部を置いていて、定員は学部毎ではなく域ごとに定めていることが挙げられる。学部毎の定員はなく、域内の学部間で相互に人員の融通が可能な柔軟な運営が可能となっている。また社会人を数多く受け入れており、修士・博士の半分は社会人が占めているのも大きな特徴となっている。この活動に対し、文部科学省から5年を期限とする特定科学交付金を受けていて、今年が5年目になっている。
   日本人は歴史的にものづくりを通じて世界に自己を発信し、貢献してきた。ものづくりを国内に残すことは、精神的に安定し、喜びのある社会を維持することになる。伝統工芸品や伝統技術から先端産業を産み出すことで感動を与える。伝統に内在した知恵を生かし、新しいものづくりに繋げることで未来を拓くことが可能となる。「伝統みらい研究センター」を設立したのは、それを可能にするためである。
センターの人員としては、センター長のほかに専任教員1名、プロジェクト研究員15名が配置されている。大学全体のトータル研究員が300名なので、センターの研究員数は多めである。ここの特徴として、21名の特定教授の存在がある。特定教授には、千宗室(茶道)、村山明(木工、人間国宝)、山下雄治(鼓のひも)、柴田勘十郎(お弓師、21代)など、日本を代表する錚々たる伝統工芸・伝統技術の伝承者が任命されている。
この方々が有する伝統技術の暗黙知を形式知に転換することを研究テーマにしている。研究テーマを列挙すると、京弓の構造と物性の関係、鼓のひも構造と音の関係、京壁の塗り易さの理由、茶道の手前と眼球運動、豆腐を掬う金網編みの間の算出方法、旗金具組立の半田作業時の眼球運動、京菓子作りのこなしと包餡による形状との関係など、研究テーマは京都に存在する伝統技術の豊富さを反映している。
別の研究として、うるしの黒を知って使ってみるというテーマが紹介された。下出蒔絵司所との共同研究であり、うるしの塗り方差を熟練者と非熟練者でビデオ解析を行なったり、塗ったうるしの表面解析を行なったりした。うるしの表面はLorenz関数が合うことが判明した。また一回塗る毎に90度回転すれば、つやが出てくることは、複合材料の強度付与と同じことも分かった。
プラスチックの板に塗って解析したところ、「うるしの黒は誰も知らない」、「つき当った黒はイカン」、「ちょっと黄みがかった方が良い」、「変化するから良い」ことなどが分かって来た。いろいろなプラスチック素材を検討した結果、ポリカーボネート/ポリカーボネートコポリマーの組み合わせで黒に近いものが出来た。
相撲の立会い研究では、大学相撲部員の体にセンサーを着け、突き押し型、四つ型など異なる得意型を持つ部員を含め、ぶつかり稽古時の頭と肩の動きを解析した。その結果、立会い時の頭の衝突は衝撃が非常に大きいが、衝突時に頭が上に動いてインパクトを軽減していることが分かった。
人材育成プログラムでは、伝統技術の解析結果に更にプラスアルファし、新しい製品や事業を産み出せないかと試みている。老舗和菓子店の「老松」で、包餡による腰高の形状変化を経験して貰うのもその一環である。
また、生体負担軽減システムでは、伝統技術にヒントがあるのではないか、疲れない作業が可能ではないかと研究している。この結果は介護にも応用が可能と期待している。
講演の後で質疑応答が持たれたが、回答部分のみを以下に纏めた。伝統技術の修得には時間が掛かるが、暗黙知を形式知化することにより、それを縮められないかと期待している。例えば京瓦の製造職人育成には15年は必要と言われているが、それを5年に出来ないかと提案している。国の伝統工芸士は一定の市場がないと認定されない資格であるが、センターで対象としている伝統技術はそれよりも市場が小さく、この資格は認められない。そういう技術の保持者は一人親方なので、親分肌の職人が多い。高品位製品と工業製品では、市場規模に格段の差があるが、工業製品に人の暖か味が加えられないか、その知恵を伝統技術から得られないかはセンターのテーマである。うるしをプラスチック製品に塗ってその暖か味を出すことが出来たのは、この研究による成果の一つである。
講演終了後、センターの実験設備を交代で見学した。組紐技術を応用した実験器具が多く揃っていた。
①西陣組紐製造装置
伝統的な丸紐、平紐、多層紐など、伝統技術による組紐製造機が並んでいた。
②炭素繊維強化型熱可塑性樹脂用の組紐
炭素繊維強化型熱硬化性樹脂は、製造工程が複雑でかつ長くなる。熱可塑性樹脂だと製造工程は短くなる可能性があるが、そのまま合わせても炭素繊維に熱可塑性樹脂が旨く滲み込まない。そこで炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維とをまず組紐にしておき、それを加熱成型することにより、短時間の樹脂滲みこみを検討している。
③古代の刀の下げ緒を再現するための織機
④ビーム用組紐機
工字型のビームを製造するための組紐製造機。
⑤複合材料用丸網機
複合材料(ゴルフシャフトなど)を製造するための炭素繊維、アラミドなどの丸網機。
⑥連続引き抜き成型機
熱硬化性樹脂を用いた連続引き抜き成型機、熱可塑性樹脂用は開発中。

見学後のライトパーティーは、センター1階のロビーで行なった。濱田先生のご配慮で、センターで実施している研究テーマをパネルで表示し、それを担当した研究員が説明するという如何にも大学らしい雰囲気となり、参加者のテーマに対する理解が進んだばかりでなく、研究員の皆さんとのより密接な交流が可能となった。
本日の講演および研究設備見学では、如何にも京都らしい伝統技術を大切に保持しながら、それを近代的技術に発展させたいという高い志が随所に見られた。それも単なる伝統技術の近代化ではなく、製品に人の温かさを感じさせるようにし、機能だけを追及する姿勢とは一線を画しているのは注目すべきことである。暗黙知の塊のような伝統工芸・伝統技術も、このような志を持って形式知に転換出来れば、寿命が長く、かつ一時的ではない近代技術として生まれ変わる可能性は大きいと期待される。そして、その最終目的が、精神的に安定した喜びのある社会を構築し、感動を与える製品を産み出すことにあるのは、技術や大学の枠を超えた高い精神性を感じることが出来て、まことに充実した訪問となった。
(文責 相馬和彦)

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