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激変する時代環境と、トヨタの研究・技術開発

と   き : 2008年12月19日
訪 問 先 : トヨタ自動車(株)東富士研究所
講   師 : 代表取締役副社長 瀧本正民 氏  
コーディネーター: 相馬和彦氏 (元帝人(株)取締役 研究部門長)

 2008年度後半の「異業種・独自企業研究会」第4回は、12月19日にトヨタ自動車東冨士研究所を訪問した。金融危機が実体経済に波及し、自動車産業も米国市場を中心として世界規模で需要が落ち込みつつある最悪のタイミングとなり、訪問が実現するかどうかも危ぶまれたが、幸いにも快く我々の訪問を受け入れていただいた。今回のような経営危機に繋がり兼ねない非常時においても、それを全く感じさせずに誠実に約束を守る姿勢に感銘を受けた。トヨタ自動車はGMを抜いて世界トップとなり、三現主義によるものづくりの力が改めて認識されているが、現場でのものづくりに到る前のトヨタの研究開発、技術開発に触れる機会は大変少なかった。東冨士研究所はトヨタ自動車における研究開発のメッカであり、しかも技術開発全体のトップである瀧本副社長の講演をお聞きするという滅多にないチャンスに巡りあい、大きな期待を持って訪問した。
   最初に東冨士研究所管理部長の藤縄康通氏より、研究所の概要説明があり、その後でビデオによる映像が上映された。当研究所では、車両およびエンジンの新技術を開発しており、研究テーマも時代の要求に合わせて、高速・安全 → 排ガス・安全 → 省資源・省エネルギー → 環境と変遷を重ねて来た。トヨタ自動車の研究施設は4ヶ所あり、本社技術部に約10,000名、東冨士研究所に約2,800名プラスアウトソーシング約1,400名、それ以外に豊田中央研究所、士別試験所を持っている。研究開発、技術開発は、豊田中研 → 東冨士研究所 → 本社技術部 → 現場と繋がる流れとなっている。豊田中研は長期テーマを担当し、必ずしも自動車に直接関係しないテーマも研究している。東冨士研究所では、30年先を見据えた研究開発を行い、それを技術研究所が量産の5~10年前の技術まで引き受け、将来の現場量産に繋げている。
東冨士研究所にはテストコースが17種、延べ23kmあり、世界の様々な道路環境でのテストが可能となっている。トヨタの役員は、毎年このコースで自社および世界各社の自動車を運転する行事があり、運転するためには社内ライセンスの取得が義務付けられている。東冨士研究所内で運転するためだけでも、社内ライセンスが必要となっている。

開発済みおよび開発中の技術としてビデオで紹介されたものには、VDIM(高い予防安全性プラス理想的な安全運転システム)、衝突安全技術、次世代エンジン(レクサス用D-4S、インジェクター改良による直噴型)、ディーゼルエンジン(ターボチャージャー改良、クリーンな燃焼とノイズ低減)、ハイブリッド車(燃料電池によるFCHV)、材料開発(ナノ技術による材料開発、軽量化とリサイクル化)などがあった。
次いで本日のメインである講演を、トヨタ自動車における技術の統括責任者である取締役副社長の瀧本正民氏に御願いした。「サスティナブル・モビリティ実現に向けたトヨタの取り組み」と題し、社会の中に存在する自動車という移動手段のあるべき姿およびそのために実施している技術開発を総括的に説明された。
   自動車の社会に対する貢献は、モビリティの発展によって経済の発展を可能としたことにある。しかし、同時にいくつかの課題も明らかとなった。第一が有限な石油資源を利用することで、石油に代る代替燃料の利用技術開発を行なっている。第二が炭酸ガスを発生することであり、発生量の削減技術開発を実施している。第三が大気汚染であり、特にオゾン発生量を削減するための窒素酸化物およびハイドロカーボンの発生減少技術を開発している。第四が交通安全である。1990年から世界で死者は減少しているものの、死傷者は逆に増加している。特に中国では毎年10万人の死者があり、増加中であるため、これを減らすことが求められている。トヨタ自動車としては、以上4項目をゼロにしながら、同時に魅力ある商品開発を可能とすることを目標に、技術開発を行なっている。
自動車産業の直面している最大の課題である環境とエネルギーへの取り組みを次に纏めた。石油のピークは2030年と予想されるので、代替エネルギーによって駆動する車の2030年までの普及を目指しているが、普及には多くの壁があり、それを一つ一つ壊しているのが現状である。どの代替エネルギーにも共通のものがハイブリッドであるため、トヨタではプラグインハイブリッド技術をサスティナブルのコア技術と位置付けている。
また石油を可能な限り長期に使える技術としては、走行マイルの向上が不可欠であるため、そのために以下の技術を開発中である。
①走行抵抗性の向上。車両の小型化および軽量化のための材料と設計。
②エンジン、トランスミッションの進化と燃費改良。2010年頃には、新しいものと取り換える予定。
環境対応車として発売したハイブリッド車(HV)は、炭酸ガスの排出量が、ガソリン車>ディーゼル車>HVの順に少なく、現在までの販売数は12車種で累計170万台を超えている(2008年11月時点)。2010年代の早い時期に、年間でHVを100万台販売すること、2020年には全車種でHVを作ることを目標としている。発売以来の技術改良で、小型化、軽量化、低コスト化が進み、出力は1997年~2007年の間に6倍向上した。パワーコントロールユニットの出力密度は3倍に、バッテリーの出力密度は30~35%向上している。
ただ車全体で見ると、台数の多いガソリンエンジン車の燃費改良効果の方が圧倒的に大きいので、トヨタとしてはこの技術改良に力を入れている。
石油代替エネルギーとして、天然ガス、合成液体燃料、バイオ燃料、電気、水素、など様々な候補が提案されているが、どれも一長一短がある。電気自動車(EV)は航続距離、コスト、充電時間、充電インフラなどの問題から、当面近距離のコミューター用途に、2010年早期に小型車(2人乗り)が普及するであろう。
家庭用電気を電源とするプラグインHVでは、短距離用途がEV、長距離がHVと予想している。フランスでのEV実験では、一回の移動で10km以内が80%を占めたので、航続距離10kmでも普及効果は大きいと判断している。ただEVでは、発電方式によって費用効果が異なり、原子力発電の方が火力発電よりも効果が大きい。リチウム電池を積載したプラグインHVを、2009年末までに発売予定している。
次世代電池としては、2008年に電池研究部を設置し、外部との共同研究を実施している。豊田佐吉が提唱した佐吉電池には及ばないが、従来電池の性能限界を突破したものをターゲットとしている。
水素エネルギーを利用した場合、航続距離500km以上というのが課題であったが、現在は700kmまで走行可能であり、-30℃の始動、走行も可能な技術を開発している。。
想定される様々な状況に応えうる研究開発は実施したが、今後どの技術をいつ頃量産技術へ移行させるかが課題である。国毎に異なる対応可能性、行政との摺り合わせなどを考慮しながら決めて行く事になる。
個々の技術を越えた総合的な取り組みも重要である。人、車、交通環境の相互関係を考え、ドライバーのエコドライブ促進(燃費が5~10%アップ)やプローブ交通情報システムを利用した交通渋滞回避ルート案内なども検討している。また安全技術として、予防安全、衝突安全ばかりでなく、プリクラッシュセーフティにより、車同士の相互通信で車間距離が接近し過ぎた場合や出会い頭の衝突防止などが可能になる。車と人との衝突も防止出来ないか、自動運転の可能性はと研究対象は広がっている。
また未来の交通社会として、太陽エネルギー駆動の交通システム研究や人体・脳の研究から安全な車とはどうあるべきかを検討している。今までの技術に頼っていては駄目だと認識しているからである。創立者の豊田佐吉が言った「研究と創造に心を至し、常に時代に先んずべし」という遺訓に従っている。
次いで全員バスに乗り、広大な研究所見学に移った。主たる見学対象を以下に纏めた。
①テストコース走行
自社および他社の車をテストするコース。かなり高角度でバンクしており、高速走行が可能になっている。トヨタの役員が自らハンドルを握り、毎年このコースで走行する由。当日も何台かのトヨタ車が、我々のバスと並行してテスト走行していた。
②iQ
トヨタ車という従来の常識には入らない小型車。1000ccで一台140万円。単なる小型車ではなく、実際に乗って見ると、社内で狭苦しさを感じさせない設計となっている。ダイハツとの共同開発。
③屋内衝突試験設備
トヨタには、本社技術部とここの二ヶ所にある。一年に1,500回ほどの衝突実験を繰り返し、自社車両、他社車両との衝突試験を行なっている。衝突の瞬間は、上下、前後、左右の全面から撮影して解析するが、下部は30cmの厚さのある特注透明アクリル板で観察可能な構造となっている。隣の部屋には衝突実験用ダミーが多数並んでいたが、一体2~3000万円は掛かり、高いものでは一体2億円はするとのこと。実験に10回使用したら、センサーのチェックをおこなっている。
④FCHVバス
日野自動車との共同開発で、高圧水素ボンベ7本を積載している。実際に所内の移動に用いてテストしている。
⑤エンジン開発研
ここではエンジン関連の研究を二件見学した。一つはトヨタらしい発想で、10年から20年先のエンジン開発セットの組立に時間が掛かるため、カセット化を行い、共通部分はカセットとして嵌め込むことにより、開発時間の短縮を図っている。もう一つは、エンジンの燃焼解析のためにエンジンを可視化し、透明な部分にレーザー照射することによって、エンジン内部の燃焼解析を行なっている。
⑥ドライビングシミュレーター
周囲に映し出される街路映像(実際の町並みを再現)に応じて運転し、油圧で車を動かして運転状態が体感出来るシミュレーター。実際には動いていないにも拘わらず、視覚でブレーキを感じると思わず体が反応してしまうほど臨場感がある。人間の感覚の80%は視覚によるという説が体感出来る。65歳以上の運転、居眠り運転、酔っ払い運転などの解析に利用している。
本日の講演および研究所見学を通じて、トヨタの研究開発はまさに横綱相撲であると感じた。基礎に徹したトヨタ中研、30年先を担当する東冨士研究所、5~10年先を担当する本社技術部という研究開発の時系列重層配置を持ち、対象テーマも自動車以外のテーマも実施しながら、世の中に起こりうる変化に対応して必要と考えられる技術をすべて網羅して研究開発し、それを財産として保有しながら、変化に応じていつでも取り出せる余裕を持って対応している。何故トヨタが、自動車産業におけるものづくりで世界一の座を占めるに到ったかの根源を見る思いがした。財務経営の色彩が強いビッグスリーが、トヨタにものづくりで対抗出来なかった理由のひとつがここに集約している。
今日の自動車産業を取り巻く環境は、極めて厳しいものがある。本日見学したような、変化への対応手段を豊富に有するトヨタ自動車であれば、どのような社会になろうとも、必要な技術を引き出しから取り出し、見事に対応していくであろうと感じさせる訪問となった。またものづくりの基本は技術開発にあると再認識することも出来た(文責 相馬和彦)

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