Home > 異業種・独自企業研究会 > 技術の枠を追い求めて、‘ものづくり’への限り無き挑戦

技術の枠を追い求めて、‘ものづくり’への限り無き挑戦

と   き : 2008年11月21日
訪 問 先 : 三鷹光器(株)本社工場
講   師 : 代表取締役社長 中村勝重 氏  
コーディネーター: 相馬和彦氏 (元帝人(株)取締役 研究部門長)

 2008年度(後期)第3回は、三鷹光器株式会社の本社・工場を訪問した。三鷹光器は世界オンリーワンの超精密精度技術に基づく非接触三次元測定装置で知る人ぞ知る企業であり、またユニークな経営方針や採用試験を実施していて、大変興味のある企業である。今回は、同社の技術開発と経営方針の核心に触れる良い機会であり、大きな期待を持って訪問したが、以下の要約に記載の通り、その期待が裏切られない一日となった。
最初に中村勝重代表取締役からご挨拶があったが、その内容が大変ユニークであった。三鷹光器は社員数が約50名、天文好きな社員が半分を占める。光については何でもやることが社是。その原点は太陽表面のコロナ活動を観察して得た感動にある。戦後何もないところから事業を始めたが、戦争中の食料難時代に東大卒の学者が右往左往しているのを見て、何て馬鹿な人達だと思ったことから自分でものづくりをしようと決心したことが始まり。長兄の中村義一現代表取締役会長に言われて一緒に始めた。三鷹天文台の隣にまず工場を作り、それから天文台の仕事の受注を始めた。最初は天体望遠鏡、オーロラ観測機器、バルーン用太陽観測装置などの設計、製作から開始した。三鷹光器における「ものづくり」は、戦時体験から「生きること」が原点となっている。

CADは入社後3年間は使用させず、まずは自らの創意工夫を設計図なしに絵に描くことをやらせる。CADを使うのは課長以上になってからで十分。入社試験は、①模型飛行機を組み立たせる(制限時間は設けずに、出来上がるまでやらせる)、②営業のために必要な絵を描かせる、ことを実施している。実際に入社試験で作られた模型飛行機や絵を見たが、どれも旨く出来ていた。また終了後のパーティーで若手社員に聞いてみると、もうひとつ試験があるとのことであった。それは中村義一会長に昼食に連れて行かれ、そこで魚料理を食べさせられ、その時の箸の使い方を見て手先の器用さを試験されたということであった。このことは、ものづくりのための創意工夫、発想を絵に具体化して顧客の理解を得るコミュニケーション、それを具体化するための手先の器用さなどを重視していることの表れであろう。
次いで三鷹光器が共同開発をしている三次元の高性能ディスプレイの説明および実物を見学した。本技術は、東北大学大学院工学研究科の鈴木芳人特任教授との共同研究であり、鈴木教授から説明があった。
ディスプレイとして現在主流のLCD、PDPは部品価格がサイズの2乗に比例し、装置価格はサイズの3乗に比例するため、価格的に40~50インチが限界と言われている。大型にはプロジェクションディスプレイが最適である。従来型のスクリーンは3層構造であるが、これを1層とすることにより、①144インチの大型リアプロジェクション、②空中ディスプレイ、③3Dディスプレイの開発が可能となった。
人間の情報入出力では視覚が圧倒的に多いので、画像を制するものが、エレクトロニクスを制し、エレクトロニクスを制するものが先端産業を制することになる。それだけディスプレイ技術は重要なものと認識している(中村勝重代表取締役コメント)。
開発中の3Dディスプレイを見学した。特徴としては、明るいところでも問題なく見えること、拡大が容易であることで、光学機器との組み合わせによる応用が可能となった。例えば医療用途で手術経過の立体画像を撮影して保存したり、明るいところで医療従事者が情報を共有することも可能となる。
次いで工場見学に移った。様々な機器を見学したが、概要を以下に纏めた。
①手術顕微鏡用のOH(オーバーヘッド)スタンド OH4型
ライカ向け製品。設計図はなく、どうやって使うかを見て、現場から出てきたデザイン。米国市場向けが半分で、月20台出荷している。ライカからの要望で、製品にはライカのマークと一緒にMitakaのマークも付けている。現場の隣には工作室があり、頭に浮かんだアイデアをすぐに作ってみるために設置した。あれこれと頭を使うよりも、まず行動で具体化するという考え方が表れている。
②非接触型三次元測定装置 NH-5N型
便利なものよりは必要なものを作るという考え方から作られたもの。精度を保つために、主要パーツは自作している。
③手術顕微鏡
脳腫瘍手術など細かい手術過程を拡大して観察出来る。
④脳外科用手動顕微鏡
重い顕微鏡装置を、殆ど力を必要とせずに簡単に動かすことが出来るため、すぐにフォーカス出来て検査が容易となった。検査後の手術には③の手術顕微鏡を使用する。③と④とを内視鏡手術に使えないかという質問には、規制ですぐには困難との回答であった。
⑤レーザープローブ付三次元測定装置 NH-3N型
トンボの複眼の細かい凹凸が観察出来た。レンズとカメラ以外の部品は自作。
⑥レーザープローブ付三次元測定装置 NH-5SP型
表面ワープに追随して測定が可能であり、極細繊維の紡糸用ノズルのノズル径や深さの測定が可能。
⑦レーザープローブ付三次元測定装置 NH-3SP型
ピックアップレンズなど、非球面レンズの表面測定用。 
⑧非接触輪郭形状測定器 MLP-2型
工具や歯車の測定用。歯車は陰になる部分が出ないように回転させず、直動軸で測定する。分解能は1ナノ。ヘッド部分のみ欲しいという要望もあり、顧客が自社の工作機械に付けて利用している。ソフトの制御部分は自社製だが、ディスプレイ用ソフトまで含めて外注。
⑨天体望遠鏡
 三鷹光器の原点。スペースシャトル積載TVカメラの実物も陳列されていた。
⑩ライカ向け手術顕微鏡
 M525型、ライカ純正品。M720型、三鷹のライセンス品でトップモデル。後者は大幅な軽量化がなされている。最大で月30台出荷。
工場見学より戻ってから、中村勝重氏より「技術の粋を求めて、 ものづくりへの限りない挑戦」と題する本日のメイン講演を戴いた。
三鷹光器はアイデア企業、特許有効活用企業として、セイコーエプソン、もう一社とともに特許庁より表彰された。同社の新製品開発の歴史を見ると、他社がやらないこと、今までの発想では不可能だったことに挑戦して来たことが分かる。例えば原点である天体望遠鏡にしても、鏡筒の重心を支点にすれば、従来必要とされてきた重いカウンターウェイトは不要とのアイデアから開発に成功した。フレキシブル望遠鏡では、カウンターアイを付加することにより、楽に天体が見られるように工夫した。スターライトでは昼間に星が観察出来る。
1966年にカッパロケットに積載してオゾンホール発見に貢献したセンサーを開発した。また同年ブラックホールを発見したX線センサーも開発した。1983年にはスペースシャトルに積載したTVカメラを短期間で開発したが、このカメラは-50℃~100℃の温度範囲で稼動しなければならず、従来の発想とは全く異なる構造を、話を聞いてすぐ絵に描いて提案した。それまでに開発して来た大手メーカーは、温度変化による構造変化を何とかして補正しようとしていたのに対し、中村氏は温度変化による膨張と収縮が構造上打ち消しあうようなアイデアを提案して採用された。1966年のバルーン用太陽観測装置では、バルーンが風によって動き、太陽観測装置を常に太陽の方向に向けるのが困難だったのに対し、観測装置がどの方向に向いていても常に太陽からの光を観測装置に導くような反射導光方式を考え出して成功した。問題に直面した際、それまでの常識に捕らわれず、本質的な問題解決を目指す姿勢が創業以来脈々と流れていることが印象的であった。
非接触測定法はISOに新しい点焦点法として登録が予定されている。
新しい手術機器として開発したMM50型は、25cmの手術作業空間で従来は直径0.5mmの血管接合が限界であったものを、その限界を突破し0.5~0.05mmまでの吻合が可能にした。この手術用高解像度立体視顕微鏡を使うと、白血球サイズの細胞まで観察出来るようになり、従来の手術技術を変革する可能性を提案出来た。これも目で見て絵を描くことが発想の根本にあり、それを育てるため、三鷹光器では課長以上でないとCADは使えない仕組みにしている。
現在エアで動くMRIを開発している。手術に必要な診断のため、MRIやCTはそれぞれ個別の装置で測定しているが、手術顕微鏡のように手術中にも観察可能な装置を目標にしている。生存率は一般手術<術中MRI<術中蛍光診断と高くなるが、新しい方法に認可を得るのは簡単ではない。
これからの夢として、地球を救うために何かしたいということがある。その視点から水に注目した。アマゾンの渇水、アラル海の渇水、地球規模での水不足への危機への対処として、三鷹光機の原点である光技術を活用し、海水淡水化のための技術開発を目指している。集光ミラー、光学センサーによる集光濃縮装置、溶鉱炉などに創意工夫を凝らし、楕円鏡で光を効率的に集める装置(ミタカシステム)でパテントを取得した。これは海水淡水化装置に活用出来、現在バーレーン、スペイン、オーストラリアなどと技術開発について交渉中である。
本日の講演および工場見学を通じて、兎に角創意工夫、アイデアを非常に大切にし、アイデアを得たら直ぐに実物を作ってみる実物主義、現場主義で動きが極めて早いことが印象的であった。この点は、合議主体の大企業では中々真似の出来ない文化である。他方、創業者である中村義一、中村勝重両代表取締役の作り上げた企業文化・風土をどうやって後継者に伝えていくかが気になるところであった。質疑応答の際にこの点をお聞きすると、八つ頭方式を考えているとのことであった。八つ頭のように親芋から小芋が出来、その小芋が独立して次の親芋となり、次の小芋を育てていくことを繰り返して企業文化・風土を伝承していくのが理想と考えている。また今日の発展まで繋がった理由は、①事業をやるという決心、やる気を会社トップが持つ、②自社技術の特許を取得する、③タイミングを見て、それを開発に移すという順序を守って来たことであると考えている。これが中小企業の取るべき道と思う。また開発は自社だけでやるのではなく、特徴のある企業と組むことが重要と位置付けている。
③米国の金融危機が表面化し、各企業では受注の大幅な減少に悩まされているが、三鷹光機では逆に注文が増加しているとのことであり、オンリーワン技術を有する企業の強みが十分に生かされていることが伺えた。オンリーワン技術が産まれるためには、個人の創意工夫を大切にし、常識と異なる発想を切り捨てないという当たり前の経営が見事に行われている実例を目の当たりにし、わが意を得たりと感檄した。また短期的な技術開発・製品開発だけでなく、長期的視点に基づいた夢も大切にしていることも印象に残った。企業内のものづくりで、当たり前のことが当たり前のように行われなくなった例を見かけることが多いが、本日の訪問はそのような傾向に警鐘を鳴らしている。(文責 相馬和彦)

コメント:0

コメントフォーム
Remember personal info

トラックバック:0

このエントリーのトラックバックURL
http://www.shinkeiken.com/wp/20120920/1824.html/trackback
Listed below are links to weblogs that reference
包みの技術を軸に、多様なニーズ・材料への対応に挑む / 東洋製罐 from 新経営研究会

Home > 異業種・独自企業研究会 > 包みの技術を軸に、多様なニーズ・材料への対応に挑む / 東洋製罐

メタ情報
フィード

Return to page top