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画期的光学用高機能樹脂ZEONEXの開発、ブレークスルーへの軌跡

と き :2008年7月28日
会 場 :アイビーホール青学会館
ご講演 :日本ゼオン(株) 代表取締役専務 夏梅伊男氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
 

 21世紀フォーラム2008年度前期の第5回は、日本ゼオン代表取締役専務である夏梅伊男さんの「画期的光学用高機能樹脂ZEONEXの開発、そのブレークスルーへの軌跡」であった。ファインケミカルズとも言われて早くから大きな期待が持たれた高機能樹脂は、多くの分野で実用化が進んでいるが、その最も有力なものの一つが光学用透明材料であり、その中核がレンズである。中でも日本ゼオンが開発したZEONEXは、優れた光学特性を持ちプラスチックレンズのトップを走っていて、カメラ付き携帯電話機のレンズでの世界シェアが90%に達している。そのZEONEXのさまざまな面での独創的な開発のお話をお伺いすることができた。
 ZEONEXは1991年に市販されたが、その開発は当初はアングラであり、1987年から本格化した。そのきっかけは、ある電機メーカーの研究所から次世代の記録メディアとして期待された光磁気ディスクにゼオンの透明プラスティック材料が使えないかとの問い合わせがあったことだ。光磁気ディスクには、先行していた他社製品が採用され、またこのディスク自体が伸びず、成功にはいたらなかった。だが夏梅さんは、光学透明材料に大きな可能性があることを知った。
 当時は、ポリカーボネイトとメタクリル樹脂が光学用に利用されていたが、ガラスと比較して吸湿性が高い、複屈折率が高い(歪みを生じる)、耐熱性に劣るなどの問題点があった。そこで日本ゼオンは、シクロオレフィンポリマー(COP)に目を付けて開発を始めた。これは光学材料に要求される諸性能のすべてを満たす優れた特性を持っていたのだ。COPはこれまで絶縁材として研究を行っており、基本となる特許を保有していた。
   夏梅さんが中心になって開発したのだが、新分野を開くためにはともかく他社に先行しなければならないとして、並のやりかたではなく、思い切ったことをいくつもやった。一つは諸性能を実現するための研究を続けるとともに、同時に開発も急いだことだ、基礎研究と製品化への開発の同期化であり、スピードを重視した。こうしてまったくの新規材料ながら、わずか3年半でZEONEXとして市販に漕ぎ着けたのである。
 もう一つは、いかにして商品として成功させるかの方策を懸命に考えたことだ。ガラスに代わるプラスチック光学材料として新分野を開拓しなければならず、これまで馴染みのない顧客にいかに受け入れられるかが基本的な大問題であった。そこで、多くの顧客に早くサンプルを提供して、顧客からのさまざまな情報を得て、開発にフィードバックさせることにした。サンプルを出せば情報が競合他社に伝わる恐れがあるのだが、それは意に介せず、顧客の意向をとらえて開発に活かすことに努めたのだ。
 さらに、速やかに製品を提供しなければならないと、いきなり1000トンの大型プラントを建設した。これは異例のことである。当初は小型のプラントで作り、市場が伸びるとともに生産設備を拡大するのが一般だが、それでは間に合わないとして、市場が未成熟の状態で本格的な生産に入ることを決断して、顧客に製品提供の確約をしたのである。経営陣の中ではいきなりの大型プラントに反対意見が強かったが、夏梅さんは必要性を強く主張して、建設を実現させた。
 こうしてZEONEXは、短期間で商業化を開始することができたが、レンズのプラステイック化は大きな流れとなって、CD用などから需要は急速に伸びていった。さらにDVDからブルーレーザー用と広がってきて、携帯電話機用が急進して売上高はグングンと拡大していった。初期の成功ばかりではなく、いまに続く事業発展のためにも、いくつかのユニークな戦略を取ってきた。それらがまさしく独創的とも言えるものである。
 その一つは、知的財産活動が主導するR&Dである。つまり、特許を生み出すためのR&Dであり、このようなニッチマーケットでは、すべてを特許で抑えて、後発の企業が参入できないように入り口を抑えるのが必須と考えたのである。
 また一つは、部材メーカーであるが、デジタルの時代の展開を読んで、適用する情報機器についてのロードマップを先取りして、新たな方向を探ることである。機器メーカーは当然やることだが、部材メーカーとしてもそれに力を注ぐのだ。そして、ロードマップをもとに機器メーカーに提案マーケティングを行う。ともかく、市場のニーズを探ることに全力を注ぐのである。それは、ZEONEXの初期に必要に迫られてやって、見事に成功したので、それが習い性となっているようだ。市場からスタートするという技術開発に徹しているのが、日本ゼオンの光学用プラスティックである。

(2008年9月 森谷正規)

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