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住友金属の独自技術開発、鉄屋の夢

と   き : 2008年7月10日
訪 問 先 : 住友金属工業(株)和歌山製鉄所
講   師 : 常務執行役員 総合研究所長 外山和男 氏  
コーディネーター: 相馬和彦氏 (元帝人(株)取締役 研究部門長)

 「異業種・独自企業研究会」2008年度前期の最終回は、7月10日に住友金属の和歌山製鉄所を訪れた。今回はシームレス鋼管、鉄道車両用鋼材などで世界のトップ技術を有する住友金属の製造現場を見学出来るばかりでなく、建設中の高炉の内部に立入れるという滅多にない幸運にも恵まれ、大きな期待を持って訪問した。高炉は一旦運転を開始すれば、25年間は稼動を続けるため、今回は極めて得がたい貴重な体験となった。
最初に鋼管カンパニー和歌山製鉄所副所長赤羽裕氏より、和歌山製鉄所の概況説明があった。和歌山製鉄所は昭和36年に第一高炉が火入れされ、銑鋼一貫体制が確立された。その後は、第二、第三高炉が続き、昭和44年の第五高炉まで次々に増設されたが、平成2年には第四、第五の高炉2基体制となった。平成9年には新シームレスミルが稼動したが、これは世界で3本指に入る新鋭工場であった。平成14年には新製鋼工場が稼動し、粗鋼生産量が400万トンから500万トンに拡大された。和歌山工場の敷地は470万㎡あり、これに台湾海南工場の90万㎡を含めると、560万㎡に達する。
会社の創業は、昭和17年に潜水艦用パイプを製造したことに遡り、その後に小倉製鋼より高炉技術を導入して高炉に進出したのが始まりである。
次いで全員作業服に着替え、工場見学に移った。見学場所は、①高炉、②製鋼工場、③シームレス工場の三ヶ所であり、途中はバスで移動した。工場敷地は広大であるが、それでも敷地面積に制限があるため、新工場を建てる場合には、旧工場を壊した跡地を利用せざるを得ないとのことであった。
①高炉 
炉自体は高さ40mであるが、付帯設備があるため、全体では100mとなる。炉の建設費は500~600億円であるが、付帯設備を含めると全部で1,600億円程度が必要である。稼動時の炉内温度は2,400℃に達し、熱風炉で空気を1,250℃に予熱して吹込むため、炉の中央部に吹込み口が30数本付けられている。炉内にコークスと鉄鉱石を積み重ねるが、8時間程度でそれが下がってくる。高炉は24時間運転であり、途中でメンテのために止めることはあるが、25年程度は稼動する。吹込み口よりも下部の炉材はカーボンレンガを使用しているが、銑鉄はカーボンで飽和しているので炉材は保つ。また炉の下部外側は、炉の鉄扉を保護するため、水冷用の太いパイプで囲まれている。破れるとガスが噴出し危険なため。この炉の最適運転条件は稼動後に探す。立ち上げには通常一ヶ月掛かり、生産量は日産8,000トンの見込み。
②製鋼工場
 この製鋼工場は、1999年に500億円を投資して建設された日本最新鋭の工場である。高炉で作った銑鉄は、トーピードー形をした貨車型容器に移して製鋼工場まで運搬する。次に銑鉄を大きなナベ型容器に入れ替え、炉体800トンの転炉に移す。生石灰を添加し、1350℃で脱リンを行う。次いで脱炭炉で酸素を吹き込み、ここで銑鋼をハガネにする。消石灰を添加して同時に脱硫も行う。脱炭炉は高さ11mのレンガ張りで、世界最高速の酸素吹き込み技術を活用している。目の前の脱炭炉は真っ赤で、離れていても暑さが顔に染込むほどであった。その後真空で脱ガス、脱硫を経てハガネとなる。
③シームレスパイプミル
 シームレスパイプは石油用とボイラー用とがあり、後者はステンレス製で尼崎工場で製造している。世界シェアーが80%に達するという住友金属を代表する製品の一つである。シームレスは製鋼から加工までの総合技術で作られ、過去20年儲からない時代にも、顧客の要望に応えてきたことで今日がある。製品開発には10年程度掛かるので、小型の試作プラントをR&Dが所有していたことが有利に働いた。シームレスパイプの外形は160~426mmで、年産400万トンに達する。工場の建設費は約800億円。
製造工程は、以下の通り。丸ビレットを1200℃に加熱。→ ピアサーで中心に穴を開け、中空のパイプにする。→ マンドレルミルで内径を肉厚加工。→ エキストラクト・サイザで圧延し、外径を変える。→ 焼入れ → 超音波検査。
 工場では赤熱された大型のパイプが轟音を上げて走り、焼入れの水蒸気が立ち上る極めてダイナミックな様子が見学出来た。昔風に言えば、まさに男の職場という雰囲気である。
 工場見学を終え一休みした後で、本日のメインである「住友金属の独自技術開発、鉄屋の夢」と題する講演を、常務執行役員・総合研究所長・カスタマーアプリケーションセンタ長の三宅貴久氏にお願いした。
 鉄は世界で年に11億トン生産されているが、比強度価格がアルミ、銅合金、チタンなどに比べて安価であったこと、強度が25~400kgf/m㎡と広く、様々な用途に展開が可能であったことが鉄の普及を後押しした。2005年度時点で、世の中に備蓄として存在している鉄は12億トンあるが、スクラップ回収は3,000万トンと未だ少なく、今後増えると予想されている。
 製鉄には高炉と直接還元炉とがあり、前者は製品に不純物が多いがコストは低い。後者は不純物が少ないものの、電炉を使うためにエネルギーコストが高く、中近東などエネルギーコストの安いところで好まれている。
 粗鋼生産量は中国で大幅に増加しており、その影響もあって鉄鉱石の価格が、2007年対比2008年で2倍となった。また山元は大手3社の寡占のため、山元の言い値で決まるようになった。製鋼用粘結炭は2007年対比で2008年には3倍に値上げされた。
 鉄鋼業も統合が進み、米国はUSスチールとニューコア、インドはミタルとタタ、欧州はリベ、韓国はPOSCOと上位16社のシェアーは26%となった。
 用途は、世界的には建設用が80%と多く、12億トンに達する。日本では製造業用が50%弱と多く、そのため品質も厳しい。ミタルはR&Dに売上の0.2%しか投資していないが、国内各社は1%台を投資しており、高級品に技術差が出ている。特許数は日本大手4社で12,028件、POSCOが3,342件、アルセロールが189件、ミタルが80件、宝鋼集団167件など、日本が圧倒的に多いが、今後はノウハウとして出さない方向。
 住友金属の2007年3月期の売上は17,445億円、経常2,982億円、純利1,805億円であり、事業内容は以下の通りである。
  鋼板
  建材
  鋼管 石油、ボイラー用、原子炉用 これが儲け頭
  条鋼 自動車用に特化
  鉄道用 車両はシェアー100% そのためどんな注文にも応じる
  鋳鍛鋼品 自動車用クランクシフト
  エンジ 儲からない
  エレクトロニクス 最小限
  マンション
経営方針として、住友の社是である「1条.信用を重んじ、確実を旨とし、……….2条.浮利に走り、軽進すべからず」を守ってきた。事業精神として、「堅固な事業基盤」の上に「見えない資産」を磨くことを基本として来たが、「見えない資産」である人的資産、顧客資産、技術資産をどうやって見える様にするかが今後の課題である。住金らしく、強いところを強く、顧客評価No.1を目指して行きたい。
 今までに注力してきた研究開発の具体例について、以下に要点を述べる。
①天然ガス採掘用 超高強度耐サワー油井管
油井管は、個々の油田の環境に適した特性を注文生産する仕組み。天然ガス田の深度が6,000~6,500メートルと深くなり、硫化水素で管にワレが起き易くなった。鋼中に存在する酸化物、硫化物、窒化物などの介在物を起点としてワレが起きることを見出し、介在物を微細化することにより、ワレを防ぐ方法を見出した。
②発電所ボイラー用 高温クリープ試験
亜臨界 → 超臨界 → 超々臨界(700℃以上、35MPa)へと技術は進歩しているが、日本はこの分野で遅れていた。数年先のことを考え、苦しくとも研究を続け、顧客へ持ち込むことを継続して来た結果、ハイアロイ管で80%のシェア-を取得した。
③ナノサイズ微粒子析出制限
造船で溶接後に鉄板の表面にひび割れが多発したが、解析の結果、溶接後に徐冷すると、粒界に結晶が析出してワレを生じることが判明した。表面のみ溶接後に水で急冷し、後は徐冷することで界面の析出を防止することが出来た。同時に評価方法も開発した。
④自動車用鋼板
2030年にリッター当たり50kmの燃費達成のため、軽量化のための工法を開発している。自動車用鋼板ハイテンの使用比率は、2004年度に50%に達し、その後も更に増加している。顧客には材料だけでなく、設計・評価・加工などを含めた使い方まで提案している。高効率クラッシュボックスでは、車体のみぞを従来のヨコに対し、タテに入れることによってクラッシュ時の効率改善が図れることを提案した。スポット溶接の強度評価では、1mm単位のサンプルを用いて評価する技術を提案した。
⑤超高速多段加工法
待ち伏せ研究として実施中。冷却方法がカギ。
こういう技術開発努力と顧客への提案により、自動車用熱間プレス鋼板で70%、鉄道用車両・車軸で100%、鉄道車軸用駆動装置で60%など、高い国内シェアーを達成した。
 技術でトップを走るためには研究開発投資が必須であり、2007年は225億円を投入した。独自研究としての基礎研究に30%、事業部・現場からの依頼テーマ、応用、実用化研究に70%を振り分けている。自社研究だけでは不十分なところは、阪大や東北大との共同研究を実施している。
 今まで独自技術を産み出して来た環境を見ると、プロセス研究、基盤研究、商品・利用技術研究の三者が有機的に作用してきたことがその根底にあった。商品・利用技術研究部隊は、客との窓口になると共に、他の部隊も使って技術開発を行って来た。大型の研究試験設備を研究部隊が所有していることも、顧客へ新商品サンプルを直ぐに提供出来るという大きなメリットがあった。例を挙げれば、高炉、転炉、真空溶解炉、連続鋳造機、年間圧延シミュレーター(3スタンド連続)、落錘試験、バースト試験、高度なシミュレーション技術、などであり、住金しか持っていないものも多い。
 最後に地球環境への取り組みを述べる。鉄鋼生産量は、世界12.86億トンのうちで日本が12.1%を占める。高炉で4,000㎡以上の大きなものでは、日本に18基あり圧倒的に多い。発電への利用、転炉ガスの回収共に日本は100%と高い。粗鋼トン当たりのエネルギー消費量では、住金が世界でベストである。またブラジルでは、ユーカリ由来の木炭でシームレスパイプを製造している。使用するコークス量を減らすため、水素を還元剤として利用する革新プロセスも開発している。
 住友金属が鉄鋼分野で技術的にNo.1の地位を占めて来た理由が、今回の訪問と三宅常務執行役員の講演で極めて明確に理解出来た。顧客へ提案出来るような独自技術に拘り、そのために必要な組織の維持と資金投入を行い、苦しい時代であっても研究開発を継続実施してきた姿勢にこそ、その原点はある。このことは研究開発者が誰でも望むことではあるが、それが実際に組織内で継続実施される例は、残念ながらそう多くはないのも現実である。今回はその原点を改めて見直す大変良い機会となり、かつ研究開発者の一人としても勇気付けられた一日となったばかりでなく、2008年度前半の掉尾を飾るに相応しい技術経営が実行されている企業を訪問することが出来た。(文責 相馬和彦)

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