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日立の鉄道車両開発、国際事業展開

と   き : 2008年4月17日
訪 問 先 : (株)日立製作所 笠戸事業所 訪問
講   師 : 執行役常務 電機グループ長 & CEO 鈴木 學氏  
コーディネーター: 相馬和彦氏(元帝人(株)取締役 研究部門長)

 2008年度前期の第3回は、4月17日に日立製作所の笠戸事業所を訪問した。笠戸事業所は長年電車を、特に新幹線車両を製造してきたことで知られている。鉄道車両は陸上の運搬手段としては最大の構造物であり、かつ鉄道はその国固有の文化であるため、鉄道に乗ること自体を目的とするほどマニアが世界中におり、夢や憧れに結びついている。そのため笠戸工場の訪問は以前から計画されていたが、それが漸く実現したので大きな期待を持って訪問した。当日は生憎の雨天であったが、工場の建屋が大きく、かつ建物間の移動に配慮いただいたため、問題なく工場見学が出来た。
 最初に交通システム事業部の栗原和浩事業部長より歓迎の挨拶をいただいた後、笠戸事業所の中山洋事業所長より事業所の概況説明を受けた。
 笠戸事業所の敷地面積は52万㎡(約16万坪)と広大であるが、元々は1917年に日本汽船が笠戸造船所として当地に起業したのが始まりである。日本汽船は1920年には造船を廃止して蒸気機関車の製造を開始した。1921年には日立製作所の笠戸工場となり、鉄道車両の製造を開始した。1924年にはED15型電気機関車を、1963年には東海道新幹線を完成させた。鉄道以外では、1957年に化学装置、1971年にはクレーン及び輸送荷役設備、1980年には半導体製造設備の製造を開始している。現在では、半導体製造設備部門、産業プラント部門は分社化されているが、鉄道車両、産業プラント、半導体製造設備の三つが笠戸事業所を支える三本柱となっている。
 事業所概況説明終了後、講演に先立ってまず日立ハイテクノロジーの半導体製造装置工場を見学した。クリーン度5,000のクリーンルーム内での組み立て作業を窓越しに見ながら、主要製品であるマイクロ波プラズマエッチング装置、絶縁膜用UHF-ECRエッチング装置、先端ゲート用UHF-ECRエッチング装置、シリコン用エッチング装置および絶縁膜用エッチング装置、ハードマスク用エッチング装置などの仕様説明を受けた。12インチのウエハーに、32nmで±1nm精度のドライエッチングが可能となっている。マイクロ波エッチング装置は、日立が最初に量産化した。
次いで新幹線の機関車先頭部分の工作工程を見学した。以前は板金加工したアルミ板を枠に貼り付けていたが、構造上の問題があったため、現在ではアルミ板からリブ一体の削り出し加工で製造している。以前は空気力学上最適な複雑な形を板金加工で打ち出していたが、熟練した板金工の後継者問題があったことも、削り出しを採用した理由である。厚みのあるアルミ板を、1,000トンの油圧プレスで曲げ加工してから削り出している。アルミ板は5000番程度の普通グレードを使用している。
その後プラント容器用のパーツ加工工程を見学した。3mmのチタンをスチールに爆着接着させて作った板を、設計図通りの曲率をもつ部品に曲げ、曲げた板を組み合わせて球形、円筒形などの容器に組み立てる。大きな板のどの部分に圧力をかけてどの位曲げたら設計図通りの部品になるかは、勘の領域であり匠の仕事となる。3000トンのプレス機を使って曲げている現場を見学する機会があったが、完成時10m直径の容器でも、部品の合わせ部分の誤差は1mm以内で、被覆チタンの厚みを越えないとのことであった。こういう匠、職人の世界が製品の精度を決めている。
次いで我々が持っていた笠戸事業所のイメージとは少々異なるエバーフラワーの現場見学を行った。事業としては異色であるが、技術は日立の得意とする真空技術を基本としており、新鮮な花の色や形をそのまま長期間保存する商品である。また雇用確保の意味もあるとのこと。花の退色は光、酸素、水分の三要素で起こるので、その中の酸素と水分を遮断すれば最低4年、事務所内のように直接光の当たりにくい場所ならば10年は退色しない。真空装置で酸素と水分を除去して密封し、窒素を封入する。保存した既成の花も販売しているが、結婚式のブーケや人生の節目での記念に貰った花を預かり、それを保存する事業も行っている。また花弁にメッセージをプリントした商品もある。
その後に車両の組立および艤装工場を見学した。ボディは軽量かつ美観からアルミ製が多く採用されており、工場訪問時にはモノレール車両が組立て中であった。アルミ車両の製造を特徴づける方法として、日立は「摩擦攪拌接合法(FSW)」を有しているが、残念ながら該工程の見学は出来なかった。FSWによって溶接された二重構造の車体を見ることは出来たが、接合部は実に綺麗に仕上がっており、FSWの実力を感じることが出来た。また艤装工場は2万5千㎡あり、仕掛車両が80台、600名が従事している。丁度新幹線のN700系および阪急電鉄の車両が艤装中であった。工程時間短縮のため、屋根、室内、車両下の三ヶ所を同時に艤装工事が出来るようになっているが、N700系の場合には部品が約2万点あり、客車の艤装に40日、機関車では60日ほどを要する。
   最後に笠戸事業所の歴史を集めた歴史記念館を見学したが、鉄道ファン垂涎の歴史的な記念物が詰まっていた。
工場見学から戻った後で、電機グループ長兼CEOの鈴木學執行役常務より「車両事業への取り組み -日本が培った世界最先端技術と国際展開-」と題する講演をいただいた。
   日立製作所の歴史的な変遷から事業、技術開発を含めた包括的な内容であったが、以下には要旨のみ纏めた。
 日立製作所の創業は1910年に、「技術を通じて社会に貢献する」という考えの下で電気モーター事業から出発した。1917年に久原鉄工が創設され、1919年に機関車製作を始めたが、1921年には日立に吸収合併された。鉄道は英国で1825年にスチーブンソンにより発明されたが、1872年には新橋-横浜間を走っている。鉄道は日本でその後発展期に入り、蒸気機関車、ディーゼル機関車、通勤型電車などを経て、1964年には東海道新幹線が開通した。鉄道の高速化では、日本とフランスが争っている。
 鉄道は炭酸ガス発生が最も少ない移動手段として開発が進んでおり、EUではその観点から鉄道を普及させようという動きになっている。日立の車両開発では、スピードと快適さを同時に向上させる技術開発を行っており、具体的な対象としては、新幹線、モノレール、A-トレインがある。
 まず東海道新幹線では、0系 → 100系 → 300系 → 500系 → 700系 → N700系と進化してきた。車両の重量および最高速度は、例えば0系で970トン/220km/h、300系で710トン/270km/h、N700系で700トン/300km/hと軽量化および高速化が進歩してきた。また電力消費量は0系を100とすると、300系が73、700系が66、N700系が51と大幅な省電力化を達成している。700系ではアルミのダブルスキン構造を採用し、N700系ではカーブでの車体傾斜システムを用いているが、同時に加速時の速度アップを図って700系対比19%の省電力を達成した。先頭車両の先端部分は、トンネルに突入した時に微気圧波の発生(ドンという音)を防止出来るように工夫されている。
 モノレールはドイツのアルヴェーグ社からの技術導入が始まりである。アルヴェーグ社は第二次世界大戦で敗戦後、失業した航空機技術者を活用して開発したもので、快適さと美観が特徴であった。元々は遊園地などに採用されていたが、東京モノレールでの採用以降、都市型交通手段に変わった。従って、都市開発の計画時点から参加して設計を行う。東京以外での都市型交通網としては、北九州、沖縄、重慶、シンガポール、ドバイ(‘09完成予定)で採用されている。
A-トレインは軽い、リサイクル可能、歪が少ないなど、アルミダブルスキン構造車両のコンセプトである。これを支える技術が前述のFSWによる摩擦接合であり、溶接に対比して歪が少なく、強度面での高品質を特徴としている。新幹線では100%、在来線では30%の普及率を目指している。それ以外には、モジュール艤装によって、車両の外装は30年保ち、内装のみ10~15年で変更可能とする技術も普及させたい。
 世界の車両はシーメンス(独)、アルストム(仏)、ボンバルディア(加)が三強であり、これに如何に対抗して行くかがこれからの国際展開の鍵である。EUでは鉄道が見直されており、2010年には域内の国際運行が自由化されようとしている。また2020年頃には高速化の計画があり、12,500キロの新線の整備が計画されていて、日立としてはこれに食い込みたい。台湾の新幹線は、日本連合として取組みましたが、これとは別に、南側の山岳が多い路線では、日本で日立が開発した振子電車を日立単独でいれました。英国では大陸との高速鉄道連結に便利なSt.PancrasとAshford間の車両を受注し、車両を納入したところである。この線は225km/hで運行し、車両納入ばかりでなく、メンテナンス事業も併せて受注している。移動手段としての鉄道と飛行機の競争は、600~700キロが境目で、これよりも遠いと飛行機の移動が有利となるので、その辺を目安に売り込み先を検討している。
 世界の鉄道インフラは約12兆円の規模がある。1/2は欧州、1/4がアジアとオセアニア、残りの1/4が米国であり、欧州の規模が大きい。その内で車両の規模は4兆円であるから、自動車に比較すると小規模である。日立は高い信頼性と環境技術を強みとしている。またハイブリッド駆動システムで炭酸ガス削減に取り組んでいる。欧州ではディーゼル車両が多いが、鉄道網の維持は国防に密接に関連していて、電気車両では非常時に弱いと考えられているためである。日立は単なる車両の供給者としてではなく、鉄道車両、運行と電力管理、機器・設備・システム、モノレール、信号、営業系システムなど鉄道の運行・維持に関するトータルシステムのインテグレーターとしてのビジネスを展開する計画である。車両の設計・製造思想では、日本は壊れたら直すため、壊れた原因を究明することを優先し、結果として技術レベルが高くなった。欧州では壊れたら換えれば良いという考え方なので、技術の面で遅れを取った。
 講演後の質問で、各国の鉄道はその国固有の文化であるため、日立の技術をそれぞれの文化とどのように整合させて行くのかをお聞きしたところ、鈴木常務からは予想を超えた回答が得られた。要約すると、「欧州の鉄道は歴史上国防の基本となっている。日本では上りと下りは常に別の線路を走るものと考えられているが、欧州では戦時にはすべてが一方通行となり、同じ線路で上りと下りの区別がなくなることが前提となっている。どこかが攻め込まれた状況では、特定の都市や地方に急遽軍事物資を運搬しなければならず、ある期間はすべての列車が一方にのみ運行され、線路に上下の区別がなくなる事態となる。そうなると、戦時の混乱などにより同一線路上で上下の列車が正面衝突する可能性もあり得るので、正面衝突しても機関車の運転手を守れる設計が要求される。日本では乗客を守る設計が要求されるのとは大きな違いである。また欧州では労働組合が強いので、運転手を非常事態でも守るような要求も強い。そのため、欧州向けの機関車は衝突テストおよびシミュレーションで安全性を確認している。また日本では牽引車といえば電機機関車が主流であるが、電気は攻撃を受けた際運行が簡単に麻痺してしまう。欧州でディーゼル車が主流なのは、攻撃を受けても、電気機関車とは異なり個々の機関車は独立して走れるからである」。
 ロシアの脅威を長い間身近に感じていた欧州であれば、そういう考えも納得出来ると思う一方、平和ボケした日本の日常感覚では、まったく考えたこともない話で、強い衝撃を受けた。国防を議論することばかりでなく、考えることすら悪いことだという教育や主張は、幻想の世界であることを欧州の現実から突き付けられた思いである。
 次に、新幹線の正面部分に使われているアルミのリブ付削り出し板について、コスト高の可能性について質問がなされた。これについては、「今まではアルミ板を板金加工して製造してきたが、熟練の板金工が後継者難となり、その対策として削り出し工法を採用した。国内他社でも未だ板金で製造しており、部品コストの大きな部分を材料費が占めるため、削り出し工法でもそれほどのコスト高にはなっていない」とのことであった。
 今回の笠戸事業所訪問では、地上で最大の運搬手段であり、その国固有の文化ともなっている鉄道車両の製造現場を見学し、世界最先端の新幹線を可能とした様々な技術を目の当たりにすることが出来た。また随所に匠の技が使われているとともに、技を伝承する後継者育成の難しさも同時に見ることが出来た。最後に、鉄道と国防について国内の常識が世界では通用しない現実を突き付けられ、今後の国の安全を考える上での重要な教訓を得るとともに強い感銘を受けた訪問となった。(文責 相馬和彦)

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