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古代瓦に学ぶ千四百年前の先人の知恵と技術

と き :2007年11月7日
会 場 :日本科学未来館
ご講演 :(株)瓦宇工業所 代表取締役/人間国宝 小林章男氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
 

 21世紀フォーラムの第3回例会は、「古代瓦に学ぶ一千四百年前の先人の知恵と技術」と題して、瓦宇工業所の代表取締役である小林章男さんにお話いただいた。場所は、この会に限って、東京お台場にある日本科学未来館にしたが、それは最新の科学技術の場において古代の技術の素晴らしさを知って、その連綿としたつながりを感じようというものだ。小林さんは選定保存技術保持者いわゆる人間国宝の方であり、86歳のご高齢である。だが実に矍鑠とされていて、とてもお年には見えない。小林さんは、古代瓦を復元して製作されるばかりではなく、古代瓦を中心とした瓦の研究者でもある。精緻なデータが豊富に含まれている数多くの資料を用意されていて、お話は研究の成果を示すものでもあった。
 お話は、我が国の屋根瓦の歴史から始まった。日本書紀によれば、崇峻天皇元年(588年)に百済から4人の瓦博士が渡日してきて、瓦づくりが始まったという。瓦はまさしく1400年の歴史を持っているのであるが、古代の瓦ははたしてどのようなものであったのか。寺院に用いられた古代の瓦が現存しているので、実体を知ることができる。
 瓦の技術の根本は、窯にあるようだ。初期の6世紀から9世紀までは、斜面に縦長の穴を開けて、下部で燃やして火炎を上に上げる穴窯であった。やがて、平地に設ける平窯に変わって、16世紀まで続いた。その後に燃焼室が両側にあるダルマ窯が現れて、現在に至っている。さらに、昭和40年ころから燃料がガスに変わった。その窯によって、瓦の質がどう違うのか。窯別の瓦質のデータが示されているが、吸水率が窯によって大きく異なる。ガス窯は7、2%と、平窯の12、28%、ダルマ窯の16、53%に比べて、とても低いのである。吸水率を時代で見ると、平安時代は8、4%と低いが、鎌倉時代13、2%、江戸時代15、8%と上がり、明治時代は19、4%と高い。それが昭和の初期には、7、2%と大きく下がっている。それは、吸水率が高い瓦は見掛け気孔率が高い、つまり数多くの微小な穴が開いているためである。

  この吸水率は、瓦の性能に深く関係する。吸水率が高いと、大気中の水分の吸水が大きく、雨の日は家の中の湿気を吸い、天気になれば放出する。高温多湿の日本には必須の瓦であった。現代の瓦は吸水性に関しては、昔のものに比べて性能が大きく劣っているのであり、したがって湿気が多い時季には屋根裏に結露が生じるという。文化財として永久に保存していく寺院などには、古代瓦が必要不可欠なのだ。

   小林さんは、古代瓦の製法をスライドで見せたが、土を練ってブロックにして、それから薄い板として切り出した生の瓦は、水分がとても多くて柔らかく、扱うのが相当に難しい。それを一枚、一枚並べて天火干しにするのである。現代の大量生産ではとてもできない製法であったが、これが吸水率に深く関係しているようだ。その柔らかい生の瓦を切り出すのに、いまはピアノ線を用いているのだが、古代にはいったい何を使っていたのか。小林さんはいろいろと試したようだが、現物がないので解明はできず、ともあれ古代人の工夫の素晴らしさを意味しているのは間違いない。
   良い瓦を作るのに不可欠であるのが、良い土を探すことである。小林さんは土を探し出す苦労も話された。粘土の層は土中深く埋まっているので、長い鉄の棒を差し込んで、その感触で瓦になる土を見つけだす。そして土の質によって、焼く温度を変える。古代から現代までの瓦の化学組成分析結果もデータで示しているが、一つ一つ微妙に異なっている。現代の画一生産にはない難しさがあるのだ。
 最後に、飾り瓦の実物を古代のものからきわめて豊富にスライドで見せた。全国各地を探し回って収集したものであり、非常に多彩な飾り瓦が日本に存在していたのだ。時代とともに形が大きく変わってきているが、古代のものは素朴だがじつに雄渾であり、瓦が古くから素晴らしい工芸であったことを教えてくれた。
 10年ほど前にこの会で、法隆寺、東大寺などの再建のための古代釘を作っている白鷹幸伯さんのお話をお伺いしたが、やはり古代の釘は現代のものよりはるかに素晴らしかった。古代瓦もそうであることを知って感銘が深く、現代の技術を見直す深い思いを与えてもらえた例会であった。

森谷正規

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