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Printing Technology と Information Technology の融合を目指す

と   き : 2008年6月3日
訪 問 先 : 大日本印刷(株)DNP五反田ビル 訪問
講   師 : 常務取締役 研究開発センター担当 戸井田 孝 氏  
コーディネーター: 相馬和彦氏 (元帝人(株)取締役 研究部門長)

 「異業種・独自企業研究会」2008年度前期第5回は、6月3日に大日本印刷㈱(以下DNP と略する)の五反田ビルを訪問した。このビルはDNPの工場跡地を利用して2006年に完成され、ショールーム兼顧客の課題解決のためのコラボレーションの場として活用されている。DNPは専業の印刷を含む情報コミュニケーション事業から、生活産業およびエレクトロニクスへと業容を拡大・発展させた実績があるため、今回の参加者は51名と盛会であり、会員の関心の高さを伺わせた。
 最初に役員兼研究開発・事業化推進本部本部長である和田隆氏より、会社概況の説明があった。DNPの前身は1876年に設立された秀英社であり、秀英社と日清印刷が1935年に合併して大日本印刷となった。秀英社時代に作り出された活字である秀英体は、現在でも時代による変化を遂げながらも継続的に使用されおり、現物を後ほどアーカイブにて見ることが出来た。
2006年10月に五反田ビルが完成したが、ここは外部への展示以外に、ソルーションの開発、顧客とのコラボレーションの場として使用されている。市ヶ谷工場についても、2009年より8年間かけ、工場の地下化を含めた再開発を予定している。
DNPは2008年3月時点で、連結の売上高1兆6617億円、従業員は単体で9,003人、連結で37,740人である。事業としては三分野を手掛けていて、①情報コミュニケーション分野。雑誌、カタログ、カード等の売上6,728億円、比率42%、②生活産業分野。包装、建材、インクリボン等の売上5,476億円、比率34%、③エレクトロニクス分野。フォトマスク、カラーフィルター等の売上3,222億円、比率20%である。
印刷以外への事業進出は、自社技術の進化・発展を基本としていて、講演を含めた今回の訪問の中で、DNPのメーカーとしての技術経営姿勢を強く感じることが出来た。印刷技術をコンバーティング技術へ発展させ、これに材料技術を加えることにより生活産業事業を産みだし、更にパターニング技術を付加することにより、エレクトロニクス事業へ進出を果たしている。情報産業高度化に伴い、印刷技術をP&I Solutionへの発展させている。。

 ここで見られるのは、まず自社のコア技術を深化させてその分野でリーダーシップを取りながら、常に新しい技術を開発することによってコア技術を発展拡大し、拡大したコア技術の上に新規事業を構築するという技術経営姿勢である。DNPが技術を基本とする経営戦略の王道を着実に歩んできたことに強い印象を受けた。
次にR&D体制であるが、本社研究(CR)と事業部研究(DR)の役割を明確に分けている。CRは開発支援、生産技術設備開発、新製品・新技術開発を600人で担当し、DRは改良・改善、事業部の新製品・技術開発を300人で担当している。CRは5年以内、DRは1年以内、技術開発センターは3年以内のターゲットと時間的な分担がある。本社研は5センター、分野研には6研究所が担当している。
研究のターゲットは従来顧客から持ち込まれることが多かったため、自社での開発リスクはあるが一旦開発に成功すれば売上は立った。しかし、最近そういう持ち込みは減少傾向にある。川上企業は川下へ、川下企業は川上へと遡及して付加価値をより多く取り込もうと考えるようになったからである。この傾向にDNPとしてどう対応するかを考えた結論が、P&I Solutionを設立した背景にある。

次いでショールーム内の見学に移り、顧客とのコラボレーションを含めたさまざまな活動が行われている中で、数ヶ所を見学した。①シアター。180インチの超高精細映像による現在開催中のミュージアムラボ第四回展スーサ発掘の歴史。②ソルーションスクエア。顧客との対話を補助するため、テーブルにタッチすることにより、必要な画像を呼び出せるコラボレーションワークテーブル、ページをめくると連動して説明や画像が変わるシンクロガイド、絵本から魚が飛び出して見えるAR Book、一枚毎に書き込まれた文字の位置と時間が記録されるフールプルーフ紙(テストの答案用紙に使用され始めた)等々。③ルーブル・DNPミュージアムラボ第四回展。展示物説明用のイヤホンは、耳の不自由な人も聴こえるような骨伝導型のもの(ルーブルの要請)。展示はルーブルとの共同開発で作られ、同種のものが2011年にルーブルのイスラム室に設置される予定。説明用の可動式ディスプレイは、展示物に向けると展示物の歴史や砕けたものをどうやって復元したかなどの情報が映像で説明される。④ICタグ実験工房。商品の個別情報管理のため、ヤマトで使用されている。電子POPでは、商品に触れたり棚から取り出したりすると、商品説明が始まる。⑤秀英体。DNPの前身である秀英社時代に作り出された活字で、時代による形の変化を遂げながら、現在でも岩波書店や新潮社で使用されている。パソコン時代になっても、字体はデザイナーがオリジナルな字体を作っている。そのためのデザイナーは自社内に抱えている。⑥ジェット・ブラック。暗所でなくても、明所で鮮明な画像を見ることが出来るスクリーン。以上のように画像情報とそれらの様々な利用方法を具体的に見ることが出来て、門外漢にも分かり易く、大変興味深いショールームであった。

本日のメインテーマは、常務取締役戸井田孝氏による「印刷技術と情報技術融合の新ソリユーションを目指す」と題した講演であった。異業種・特徴企業研究会は、20年前の平成元年秋に柏のDNP開発センターを訪問している。その後開発センターは試作設備が増強されてクリーンルームが増えたため、見学範囲が限定されることを考慮し、今回は五反田ビルを訪問することになった。
20年の間に、売上は1兆745億円から1兆6160億円へと50%程増加したが、研究開発費は98.5億円から350億円へと3.6倍に増えた。また事業部間の研究が増加しており、これはCRで対応している。CRでは開発支援を除き、事業部からの依頼研究は受けない。IT関連のテーマも増えており、これは世界的な傾向である。印刷関係のExpoがドイツで定期的に開催されているが、印刷の前工程(全体の1/3)では企業が消失しつつある。
顧客のニーズは、綺麗な印刷から印刷物にどれだけ効果があるかに移っている。そのため、顧客の課題解決、すなわちソリューション提供へと社内方針も変わった。21世紀は、予期せぬ社会現象が次々の生まれ、変化し続ける社会、すなわち創発的な社会と捉えており、そのためには社内各組織が自分の役割を認識し、領域や方針を設定することを経営の基本としている。この方針は2001年~2002年に設定された。
DNTの基本となるコア技術はPT(プリンティング技術)とITである。PTは材料、パターニング、コンバーティングなどの要素技術を含み、ITは情報処理、HMI(Human Media Interaction)、情報セキュリティなどを含んでいる。これらは元々自社で所有していた技術を進化・発展させて来たものである。このPTとITを融合させてソリューションへ活用し、生産技術、評価技術として確立した。R&Dで創出してものを事業部へ移管して確立させた。模式的に纏めると以下のようになる。

     ⇒ 情報加工の高度化  情報・コミュニケーション ⇒ 
IT、PT ⇒ パターンの高精度化 エレクトロニクス      ⇒ ソリューション 
     ⇒ 材料のインテリジェント化 生活・産業      ⇒

 CRの活動状況を示すため、新しい技術のタネを創出した例を2例ほど挙げるが、いずれも社外との共同活動の例でもある。
1.Photo-catalytic lithography
TiO2の光触媒作用をパターニングに応用した例で、親水性部分と疎水性部分とのパターンに細胞を付着させるパターニングを行った。牛の内皮細胞を用いて、毛細血管が出来た。これをマウスでテストしたところ、血管再生効果が認められ、再生医療への応用が考えられる。現在は細胞のパターニング培養皿を販売している。
2.Magittiサービス
 携帯による情報サービスで、検索ではなく行動推論による情報を提供する。XeroxのPARCとの共同研究。
 最近オープンイノベーションを推進している。従来は自社内研究だけで十分であったが、世の中の変化が予想を超えるので、自社だけの研究に頼るのはリスクもあると認識した。特にIT分野では米国ベンチャーへ投資し、ビジネスモデルの導入も試みようとしている。この間学んだことは、①仮説提示能力が欠如していることおよび技術の目利きが必要なこと、②ベンチャーのダイナミズム、である。副次的には、NIH意識が改まり、必要な技術は導入しようという機運も出てきた。画像技術の導入はその1例である。
 講演終了後に行った質疑応答の要旨を以下に要約した。
①研究テーマの発想はどのようになされているか? 
基本的に研究テーマの提案は自由であり、提案までの探索・準備は現場主導で行い、部単位の裁量に任せている。ただCR部隊には本業との関係から情報が入るようになっており、何となく研究テーマの方向感が分かる。研究の進め方は、まずは数人単位で研究し、事業化プロジェクトに決まると10~20人に増やす。やれそうだとなると20~30人に増え、本社プロジェクトあるいは事業部プロジェクトに決定すると30~40人程度の人員を投入する。そのまま新しい事業部となることもある。
②事業化のクライテリアは?
 特にクライテリアはなく、早い者勝ちである。失敗を恐れて躊躇することはない。
③オープンイノベーションで良い技術を見つける方法は?
 分野としては新しい分野であるITやバイオに注目している。その中で、技術の融合という視点から撰ぶようにしており、現在進行中のものがいくつかあり、タネが出てきている段階である。
 今回の訪問で最も印象的だったのは、DNPの技術経営・戦略である。自社のコア技術が何かをしっかりと理解し、それを深化させるとともに、新規技術を開発して追加し、進化・発展させて新しいコア技術を創出し、その上に新規事業を構築するという戦略を継続して今日の発展を導いた。
 また技術開発の体制についても、CRとDRの役割を明確に定め、短期・中期のテーマ分担をバランス良く維持してきたことも、コア技術発展に大きな貢献をしてきたことは疑いがない。
 以上の二つの要因は、技術経営・戦略の王道であり、長期的には最も成果を継続的に出すことが出来るにも拘わらず、短期的な売上や利益を重視する経営者から近年軽視されているのは眞に残念なことである。今回のDNPの例が、技術経営の良い規範となることを期待している。
 DNPでは事業化にクライテリアは設けず、まずやってみることを基本としているが、予想を超える変化が増大する21世紀の社会では、まずやってみて成功したものを残すというDNPの方法がより有効な手段となり得るであろう。
今回の質疑で話題となったオープンイノベーションについては、一般的には効果があると考えられているが、自社に強みやコア技術の優位性がなければ、効果は小さいであろう。オープンイノベーションは、あくまで自社の強みやコア技術の優位性を補完するものと位置付けるべきである。強いコア技術を有する者同士が補完し合うからより強くなれるのであって、弱者同士が結んでもより強くはなれないのは自明である。この観点から見ても、強いコア技術を複数有するDNPの進め方は理にかなっている。
(文責 相馬和彦)

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